【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


「グレン様、私は……、欲しいものなんてありません。でも、グレン様は、グレン様のままで居て頂きたいとそう思っております」
「ルネ……リア?」

 グレンの虚ろな瞳が、やがてルネリアをとらえた。そしてそのまま、曖昧に輪郭を形どるようにして、ルネリアを映していく。その姿にルネリアは僅かに頷いて、グレンの瞳と目を合わせた。

「……私は、約ひと月の間、グレン様と共に居させていただきました」

 ルネリアは、このひと月の出来事を思い返しながら、言葉を紡ぎだしていく。まだ初め、この屋敷に訪れてすぐの、契約が変更になった時。あの時を今思い出してみれば、ただ鋭いと思っていたグレンの瞳は、自分と同じように不安で揺れていたことを思い出す。

 そして次に、仕事の説明を始めるときの、グレンの声色は緊張を帯びていた。そして、頑なに自分を「そちら」と言うグレンに対して、自分の名前がルネリアだと伝えると、何故か酷く焦っていた表情を思い出す。そして、部屋に案内されたときに言われた、あの言葉――。

 ――いいか、貴女は素晴らしいんだ。絶対に、誰がどんな妬みや嫉妬で貴女を乏しめようと、貴女の素晴らしさは……――

 それまでずっと、ルネリアは呪詛のような言葉を浴びて生きていた。それはルネリア自身、仕方がないことだと思っていた。自分は、産んでくれた母以外の人間には受け入れてもらえない存在であると、毎日毎日これでもかというほど証明をされて生きていた。