ルネリアは自分になりたいと思ったことがない。母は自分を愛してくれたと断言できる。しかし母以外の人間……、継母や、異母姉、そして父には疎まれ、ひたすらに邪魔ものだと扱われた。
ルネリアの母だけは、彼女を疎まなかった。紹介所の人々は、優しくしてくれた。しかし父は彼女を疎んだ。自分を見るたびにため息を吐き、異母姉が王太子へと近づくのを止めようとするたびに「家族を大切にしようと思わないのか?」と責めた。
庭園を潰されたことを悲しんだとき、「姉と母親の安全を考えられないなんて意地の悪い人間だな」と言った。
だから、私は私になりたくない。でもグレン様は私になりたいと言う。何故だろう。グレン様は優しい方で、こんな私にも良くしてくれる素晴らしい方なのに、私なんかになってしまってはいけないのに。
――俺は、貴女の役に立ちたいのに……っ
どうして、貴方はそんなことを、言ってしまうのか。ルネリアは目の前の男を見て、心の氷が解けていく感覚がした。
「グレン様」
躊躇いがちに、ルネリアがグレンの腕に触れる。グレンはただじっと自分を責めてルネリアが自分の腕に触れていることに気付かない。もう一度、今度はわずかに力を込める。



