神田くんを突っついて起こすことさえ出来なかった私は、今までの全てを親に話し、病院に連れていってもらうことになった。

初めて入る精神科の入口。1歩踏み出して開いた自動ドアに向かって歩いていくと、そこには静かにスマホを見つめる人、本を読んでる人、新聞を読んでる人、いろんな人がいた。ここにいるみんなが何かしらの悩みがあるから来ているのだろう。私と同じように原因が分からない人もいるのだろうか。

「こんにちは。今日はどうなさいましたか?」

受付にいる看護師さんだろうか、私とお母さんを見つけて声をかけてきた。

「自分を変えようと思ってきました。」

私はそういった。理解不能というような看護師さんの顔を見て慌てたお母さんが、これまでのことを説明した。

説明を聞いて納得したような顔の看護師さんが、

「初診ですので、問診票の記入をお願いします。」

と、紙を渡してきた。それを書き終えて、看護師さんに渡すと、英単語帳を広げ勉強を始めた。

30分くらいだっただろうか。私の名前が呼ばれた。

診察室へ入ると、若い女医さんだった。

「男の人が苦手ということでいいかな?」

そう言って来た女医さんに、付け足した。

「そうなのかもしれないけど、普通に話したりはできるんです。でも、少しでも触られると吐き気が止まらなくて。」

なるほど、と言いながら女医さんはカルテにメモをしていった。

「なにか原因とか思い当たることないかな?例えば、前に男の人に嫌なことされたとか。」

女医さんは優しく聞いてきた。

「全く無いんです。だから逆に心配になっちゃって…」

「なるほど。」
そう言って少し考えたような女医さんは

「とりあえず吐き気止めを出しておきます。高校生なら多少の男女のスキンシップはあると思うので、お守り代わりに持ってて欲しいな。それで、辛くなったらすぐに飲んで欲しい。」

「私は治るんですか…?」

「薬で吐き気を止めながら少しずつスキンシップを取っていくうちに、だんだん気づいたら薬が要らなくなってると思うの。だから、お薬がなくなったらまた来てくれる?」

「はい!」

女医さんの言葉で少し気が楽になった。これで神田くんを起こすときも気持ち悪くなったりしない。

「ちゃんと勇気出して相談して良かった。」

心の底からそう思った。

私は絶対治る、そう思うと濃い霧にかかったような未来に光がさすような感じがした。