私がハルノに勇気を出して言った後、しばらく無言だった。
しかし、ハルノは急に思いついたかのように言った。
「この前、ホリタくんにぶつかったときも吐き気したの?」
「それがさ、してないの。初めて。」
「そうなんだ。なんでだろうね。」
「それ考えたんだけど思いつかなかった。」
「数学より難しい問題た。」
数学が大っ嫌いなハルノがそう言った。
やっぱりいくら考えてもわからないよね。
私はもう考えるだけ無駄だと思っている。
そう思っていたから今までそのこと忘れてた。
思い出したところで何かわかる訳でもない。
あれから、ホリタくんとは廊下で会うと挨拶をするくらいの仲にはなっていた。
逆に言うとまだそれだけの仲だから、いきなり触ることも出来ない。
だからあれはたまたま吐き気がしなかっただけなのか、ホリタくんだから吐き気がしなかったのか、治って吐き気がしなかったのかわからない。
「またぶつかればいいじゃん。」
ハルノは他人事のように言うけど、ただでさえ挨拶するだけで緊張するのに、わざとぶつかるのは無理だ。

いろいろ考えながらハルノと歩いていたが、別れる時が来た。
「また月曜日ね。」
そう言って私たちはお互いに手を振って別れた。
ハルノと別れてからは10分くらい1人で歩かなくてはいけない。
1人でいろいろ考えながら歩いていた。
その時、
「あっ、いた。」
そんな声が後ろから聞こえた。
振り返って見ると、そこに立っていたのは、ホリタくんだった。
「ホリタくん?どうしたの?」
普通にびっくりした。
なんで立っているの?
部活は?
そんなこと聞きたかったけれど、動揺しているのが伝わって欲しくなかったから冷静を装った。
「えっと、あの、数学で教えて欲しい問題があって。」
バレバレの嘘だ。
他に本当は用があるのだろう。
また何か落し物をしたかな。
そんなことを考えながら、
「私わかるかわかんないけどどこの問題?」
そう聞くと、ホリタくんは慌てて自分のカバンの中をあさった。
「問題集忘れてきちゃった。」
そう笑うホリタくん。
やっぱりかっこいいな。
「わざわざ追いかけて来た意味ないじゃん。」
そう言って私がわざとクスリと笑う。
「あの、本当は聞いて欲しいことがあるんだ。」
そう、ホリタくんは真面目な顔をして話を始めた。