「何だ、そういうこと」
完全に安心したような顔になった輝楽さん。
よく分からないけど、よかった。
「伊鳥ちゃんは優しくていい子だから。もう俺は傷ついてほしくないんだ」
そう言ってくれた輝楽さんの言葉に泣きそうになる。
……優しいのは、輝楽さんです。
それに、太陽君も。
輝楽さん達のおかげで、私は咲と向き合う覚悟がようやくできたんですよ。
「もう家に着いたね」
その言葉に顔を上げると、確かに小夜さんの家に着いていて。
……もう少し輝楽さんと一緒にいたい。
そう思ってしまった。
「そんな顔させると離れがたくなる」
それが顔に出ていたみたいで、そんなことを言われてしまった。
だったら……
「まだ離れなくていいですよ」
特に何も考えずに言ってしまった。
私の言葉に輝楽さんは驚いてる様子。
でも、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「伊鳥ちゃん」
「なん……」
何ですかって聞こうと思ったけど、言葉は止まった。
だって……
「輝楽、さん?」
何故か分からないけど、輝楽さんに抱きしめられたから。
スッとしているのに、胸板は意外と厚くてそれを直で感じて、顔が熱くなった。
「頑張って、伊鳥ちゃん」
赤い顔のままそっと見上げると、輝楽さんは今までで1番優しくて綺麗な笑顔を浮かべていた。
それに、思わず見惚れてしまう。
「ふっ、真っ赤」
「なっ……!」
今度は意地悪な顔。
「伊鳥ちゃんは大丈夫だから。じゃあね」
そう言って去っていった輝楽さんをぼんやりしながら見つめた。
時折、輝楽さんに抱きしめられた感触を思い出しては顔を赤くして。



