「えっ、やっぱり佐野先輩と一ノ瀬さんって付き合ってるの!?」


「いや、まだ付き合ってないんじゃない?」


「うん、私もそうだと思うよ。噂では流れてたけど、まさか本当に佐野先輩の本命が一ノ瀬さんなんてね」


ヒソヒソ言ってるけど、思いっきり聞こえてる。


うぅ、言われてるよ……


佐野先輩が女遊びをやめた、本命ができたという噂は広まってたけど、誰かまでは特定されてなかった。


でも、今ので完全に分かったはず。


私が佐野先輩の本命の相手だって……


なんて、自分で言うのも恥ずかしいけど。


「あの人、ほんと飄々としてるわねー。ふゆにちゃっかり好きだって言ってるし」


「あ、あはは。そ、それより、紗奈ちゃんはどうだったの?」


話をそらしたくて、慌てて紗奈ちゃんの話題を振った。


でも、あれからどうなったんだろうって気になってたのは本当。


「私っ?」


「うん、紗奈ちゃん」


「え、えっと、もちろん楽しかったわ」


「そっか、よかったね。ちょっとは進展できた?」


「えぇ!」


嬉しそうな紗奈ちゃん。


恋する乙女そのものに、可愛いなって思った。


私も湊君に対してこんな顔してたのかな……?


私のことはもうこれ以上聞かないでほしいと思いながら、その場をやり過ごした。


もう過去形になっていたことに自分でも気づかなかった。