あの時…私が大好きだった輝羅くんが垣間見えていた。



「…それに私が応じると思う?」



一拍遅れてでも言葉に出さずにはいられなかった。



「…」



彼は黙った。



「都合がよすぎる。何なの、私のことばかり振り回したくせに。許せない。そんな相手に抱きしめられるなんてありえない。って思ってるけど、…。



でも、最初はほんとうに楽しかった。私のことを大切に想ってくれているのが素直に分かった。あんな風にして、最後まで一緒にいたかった。あの一瞬が、永遠でほしかった。

……私と付き合ってくれて、ありがとう」



いつもは輝羅くんからだったから、今度は私からハグをした。



最初で最後の、私からのハグ。



輝羅くんの身体がびくっと反応した。私はそれに気づいたけど、まだ彼の背中に腕を回したままでいた。



「今のは、過去の輝羅くんへの気持ちだから。今の輝羅くんには恋の『こ』の字もないから、勘違いしないでよ」




もう遠慮せずに、自分の言いたいことをズバッと言った。




「…りお…っごめんな…」



彼は泣いていた。



私にはそれが、試合で負けた時のような悔し泣きのように思えた。



「…すき…」



輝羅くんが私にぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で呟いた言葉は聞かなかったことにした。



私はそっと輝羅くんの腕からすり抜けて、はっきり目を合わせた。