だって田んぼ見えるんだよ?
草生い茂ってるよ⁉︎
久保くんの最寄りってこんなとこだったんだ…。
普段は輝羅くんと一緒に帰るから、外の景色なんて見る暇もない。色々な意味でドキドキさせられっぱなしだから。
高校から近いのに、…。
「そ。学校と近いけど意外と田舎なんだよね。あ、ほらあそこにベンチあるから」
彼の言う通り、駅のすぐ近くに公園があった。
その日陰になっているベンチに、彼は誘導してくれる。
私はそこにそっと腰を下ろした。
するとそんな私に、久保くんがこう声をかけた。
「いいよ、俺膝枕するから」
「それはちょっと…」
「あ、そっか。朝倉さん彼氏持ちか」
察してくれたみたいでよかった。
そのあたたかい空気が心地よくて、私はそっと目を閉じる。
「ここさ、みんな素通りしてくんだよな」
ふと久保くんが言った。
私がそっと目を開けると、久保くんは少し離れたところにある桜の木を見ていた。
それからはもう桜の花びらが散り始めていて、葉桜となりつつある。
そういえば、今年はなんだか春らしくなかったな。
気分的にももちろんそうだけれど、まだ今もすこし寒い日が続いている。
「こんな素敵な公園なのに、見ても見ないふりをしてさっさと駅に向かってしまう。人間って、忙しいよね」
久保くんが呟く言葉はなぜか心に刺さった。
…確かにね。
私もそう思うよ。
この公園はいい場所だと思う。自然が感じられるっていうのもあるけれど、なにより雰囲気がいい。
けど、まるでここが見えないかのように通り過ぎてしまう人がほとんど。
今この公園にいるのは、親子であろうふたりだけ。ふたりは楽しそうにボールをパスし合っている。
あ、やばいかも。
いきなり抗えないくらいの眠気が襲ってくる。
私はそのまま眠りの世界へと落ちていった。



