「あ…久保くん」
見上げると、久保くんが立っていた。彼はポケットをまさぐりながら私に声をかけていた。
「朝倉さんのかどうか分からないんだけどさ…もしかしてこれ落としてないかな」
と私の前に差し出されたのは、私のペアリングだった。
「さっき登校している時、ちょうど前に朝倉さんがいるのが見えてさ。朝倉さんが落としたのかなって思って拾っておいた。走ってたから気づかなかったのかなって」
「あ、ありがとう…」
「ん」
久保くんはそっと私の手の上にペアリングを置いてくれる。
「あと、そういうのはあんまり学校に持ってこないほうがいいと思うよ」
さっきので終わりかと思ったが、さらに彼はそう言葉を付け足した。
「へ?」
「結構有賀ってイケメンじゃん。だからペアリング奪われるかもしれないし、それに先生にでもばれたらいろいろ言い訳するの大変でしょ」
「あー…そっか」
そもそも、これがペアリングってことがバレてるのか。
「ご忠告ありがとう」
私はそっとそれを鞄の中に閉まった。
「じゃあ」
用がなくなったのか、久保くんはひらひらと手を振りながら自分の席に戻っていった。
「なんか久保って、たらしっぽいよね」
頬杖をついてちょっとむすっとしながら、萌映が言う。
「え?そうかな」
「だってさ」
萌映は私の方に目を向ける。
「普通に返すんなら『これ落ちてたよ〜』で終わりじゃん。けどそれで終わりにしないってことは、もしかしたら莉桜のこと…」
「あああー、それはないね!」
私は萌映よりすこし大きな声を出した。



