年が明けて、冬休みが終わり、三学期に入った。

 新学期早々私を待っていたのは、学校中に広まった『白樺と森が付き合っている』という噂だった。

 私と森くんが二人で住宅街を歩いていたところを誰かが見かけたらしく、ああじゃないか、こうじゃないかと尾びれがついて、『昔白樺は髪を脱色していた』『白樺は何処かの組の裏番長』『森との出会いは縄張りをかけた決闘で』『愛用の鉄パイプを持ち歩いている』……など、事実無根の話が流れていた。

 いや、裏番長って何? 脱色経験なんてないし、殴り合いの喧嘩だってしたことがない。鉄パイプを持ち歩いている女子高生って、何処の少年漫画よ。

 そんな噂話のせいで、クラスメイトからは余計に避けられるようになった。気のせいかもしれないけど、学年主任や体育教師の私を見る目も変わった気がする。

 けれど結果的に良かったこともあり、その噂話のおかげで私への陰口は一切なくなった。私を悪く言った人は、森くんに目をつけられるとかなんとかで。

 所詮は学校の噂話。流行のファッションのように、しばらくすれば皆の興味は薄れていくだろう。

 森くんもその噂については何も言わないし、一人一人に訂正していくと切りがないので、一先ずその噂話はこのまま放置することにした。

 二月のVD祭まで一か月を切り、一日一日と日付が変わる度に、演劇部のピリピリとした雰囲気を増していった。練習も体育館での通し稽古が多くなり、先日は本番の衣装を着て劇を最初から最後まで通した。

 冬休みが明けてから、私は自分から暗転を使っての練習をするように頼み込んだ。皆はとても驚いていたが、日野川先輩が真っ先に頷き、私の様子を見ながらの練習が始まった。

 今でも、暗い場所は怖い。クラスメイトの男子の怒鳴り声は苦手だし、表情だって変えられない。

 けれど、そんなときはお母さんの言葉を思い出し、できるだけトラウマに蓋をするようにした。

 私は、お母さんに愛されている〝人間〟だ。

 人形とは違って、自分で前に、未来に進んでいける足がある。

 私は変わっていける。いつか、トラウマを完全に乗り越え、明るい未来に飛んでいけるのだと。

 そう思うだけで、息が楽になった。