日野川先輩が手を叩き、すっと体の力が抜けていく。

「ちょっと優樹先輩! 途中でピクピク動かないでくださいよ! 大人しく死んでてください!」

「お前、言い方ってもんがあるだろ」

「でも室谷の言う通りだよ。森はちゃんと死んでてくれないと」

「センパイまで……お前ら人の心何処に置いて来た?」

 待ちに待った十二月二十四日。冬季合宿一日目。

 こんな沈んだ気持ちで合宿当日を迎えることになるなんて、せっかく合宿のお金を払ってくれたお母さんに申し訳なくなる。

「……白樺先輩、大丈夫ですか?」

「竹市さん……。うん、大丈夫だよ」

 私は竹市さんに余計な心配をかけないように平然と振る舞うと、竹市さんはスッと目をそらして言う。

「それならいいんです。……また、急に倒れられても困るので」

 数日前、この体育館で本番と同じように劇を通してみようとしたとき。私は暗転の中で気絶し、目が覚めたときには保健室のベッドにいた。

 私が倒れた後、演劇部の皆は色々と大変だったらしい。生徒より気が動転した岡本先生の代わりに、日野川先輩が冷静に私を保健室へ運ぶように指示し、午後の練習は中止。皆でせっかく運んできた大道具や小道具などは舞台袖の邪魔にならないところに片付けて、私が目を覚ますまで保健室で付き添っていてくれたらしい。

 私が体を起こすと、真っ先に泣きそうな顔をした室谷さんに抱き着かれた。そして私は皆から訳を聞かれ、申し訳ないと思いながらも、昔から〝暗い場所が苦手〟なことを話した。

 だからいつも就寝の際には、部屋を真っ暗にせず、豆電球だけつけてベッドに入る。

 光の一切ない暗い場所にいると体が震えだすことはあったが、倒れるのは今回が初めてだった。

 それ以来、皆は私を気遣ってか、演劇部で暗転を使用する練習はなくなった。本来暗転になる場面では、照明を徐々にフェードアウトしていき、真っ暗になる前にまた明るく照らす。そんな練習を繰り返し行った。

 けれど、本番はこのように暗転を使用しない、なんてことはできない。

 自分でもわかっている。早く、何とかしてこの〝トラウマ〟を克服しなければ。

「水葉」

「っ! ……森くん」

 森くんは勘が鋭い。というより、人の心を読むことができる超能力か何かを持っているんじゃないかと思う。

 森くんはいつも、私が自分を追い詰めようとする絶妙なタイミングに声をかけてくる。

 目尻を吊り上げて、睨みつけるように。けれど眉は下がっていて、まるで自分のことのように悲しそうに。心配そうに。