月曜日の放課後。

 部活を終えた後の補習の時間に、私は日野川先輩に合宿に参加できることを伝えた。

 前回と同じくらいに引き込まれる、心が温かくなる日野川先輩の台本読みを終えたばかりのせいか、私の声は自分でもわかるほどに弾んでいた。

 私が早速持ってきた合宿の集金の入った封筒を手渡すと、日野川先輩はまるで自分のことのように喜ぶ。

「そっか。上手くいったみたいでよかったよ」

「日野川先輩のおかげです」

「僕は何もしてないよ。合宿に参加できるようになったのは、お人形さんが勇気を出して、お母さんに自分の思いを伝えたからでしょ」

「その勇気を引き出せたのは、日野川先輩が、私を、日野川先輩の物語の世界に連れ出してくれたからですよ」

 間違いない。断言できる。

 あのとき、日野川先輩と台本読みをしていなかったら、日野川先輩が私をこの世界から連れ出してくれなかったら、私は勇気を出してお母さんに本音を伝えることができなかった。

 私は日野川先輩に、自分の素直な感謝の気持ちを伝える。

 その次の瞬間。

 バサバサと音を立てて、日野川先輩が手にしていたプリントの束が床に落ちた。

 日野川先輩はポカンと口を開けたまま、私を凝視している。

「……本当に、僕のおかげだと思ってるの?」

「はい」

 私が頷くと日野川先輩は静かに下を向き、台本の印刷されたプリントを見下ろす。

 ……どうかしたのかな?

 私は日野川先輩の様子に首を傾げながら、しゃがみ込んで日野川先輩が落としたプリントを拾い上げる。

 すると、ふいにプリントを持つ私の手に大きな影が被さった。

 顔を上げると、至近距離に日野川先輩の整った顔があった。日野川先輩は私と目線を合わせるようにしゃがみ込んでいて、私はそんな日野川先輩に釘付けになる。

 すぐ近くの整った顔に、ドキドキしたわけではない。

 日野川先輩が——今まで見たことがない、無機質で、冷たい瞳をしていたからだ。

「……もし、本当にそう思っているのなら」

 日野川先輩は確かに私を見ているはずなのに、その瞳に私は映っていない。

 目の前に立っているのは、本当に日野川先輩なのか。日野川先輩の姿をした別の誰かなのではないか。

 そう疑ってしまうほど、目の前にいる日野川先輩は、私の知る日野川先輩とは似ても似つかなくて……。

 日野川先輩は冷ややかな目線で私を射抜き、抑揚のないロボットのような声で吐き捨てるように言った。

「お人形さん。……君は、本当に〝滑稽〟だ」

 〝滑稽〟。一瞬、その単語の意味が思い出せずに硬直する。少なくとも、この場面で使うような言葉ではないだろう。

 現状の把握に頭が追い付かず、一周回って冷静に、純粋に疑問に思った。

 どうして、そんなことを言うんだろう。何もおかしいことは言っていないのに。日野川先輩の描いた物語を凄いと思ったのも、日野川先輩に心から感謝しているのも真実だ。

 なのに、なんで「〝滑稽〟だ」なんて……。