淡い茶髪の髪を揺らし、控えめなメイクをした二人のクラスメイトが頭を下げる。

「いや~本当にごめんね! うちら、今日はど~しても早く部活に行かなきゃいけなくてさ」

「帰宅部の子がいると本当に助かるわ~! それじゃあ、あとはよろしくねっ」

 休み時間に「放課後はショッピングモールに寄ろう」と会話していた二人は、申し訳なさげにそう言って駆け足で教室から出て行く。

 そんな嘘つかなくても、頼まれれば掃除くらい引き受けるのに。

 そう思いながら、黙々と箒で床の上の埃や消しクズを掃いていく。

 ……あ。お母さんと直斗に、今日から帰りが遅くなるって連絡してない。

 でも、いいか。多分部活をした後でも、帰宅する時間は私より二人の方が遅いだろう。

 必死に働いているお母さん。それに比べて、生きることを諦めて自殺を選んだ私。

 お母さんには、本当に申し訳ないと思っている。

 せめて私がいなくなった後、私のために使っていた分のお金で……二人で、幸せに生きてほしい。


 クラス全員分の椅子を机から下ろし終わり、ほっと息をつく。

 やっと帰れると思いながら鞄を肩にかけて教室から出ると、そこには廊下の壁に寄り掛かってスマホをいじる森くんの姿があった。

 廊下の照明を反射し、より明るく輝いて見える金髪。できる限り着崩した制服。

 いかにも不良といった雰囲気を漂わせる、これから向かう演劇部の部員の一人。

 森くんは教室から出てきた私に気がつくと、顔を上げて右手を胸の位置まで上げる。

「よっ」

「……なんで、森くんがここにいるの?」

「センパイがお前を迎えに行けってうるさくてさ」

 センパイ……日野川先輩のことか。

 私は弁償代という弱みを握られているのだから、わざわざこんなことしなくても逃げたりしないのに。

「そう、なんだ」

「てか、お前出て来るの遅くね?」

「掃除、してたから」

「は? 一人で?」

「いつもは三人でやってるんだけど、今日は二人とも用事があるみたいで……」

 私がそう答えると、森くんはぐっと眉を寄せる。

 そして、先程より険しくなった声で言った。

「お前……いじめられてんの?」

「……え」

 どうやら森くんは、私が無理矢理掃除を押しつけられたのだと思ったらしい。

 私は首を横に振り、その問いかけを否定する。

「違うよ。いつもはちゃんと三人でやってるし……本当に、今日はたまたまだから」

「……ふーん」

 いつもは三人でやっている。これは本当のことだ。

 ……今日みたいに掃除を押しつけられるのは、月に一回あるかないか程度だし。

 それより、森くんに言いつけるような真似をして、クラスメイトに目をつけられる方が面倒だ。

「何かあったら言えよ。一応、同じ部活の仲間なんだし」

 森くんは納得のいってないような返事をした後、ぶっきらぼうにそう言って、鞄を持った腕を肩にかけて歩き出す。後ろから見ると、アニメや漫画に出てくる不良の図そのものだ。

 私も鞄を持ち直して、数歩の間を空けて森くんの後を追いかける。