「……返事、くれるんですか?」

「うん。だって、それが礼儀ってものでしょ?」

 日野川先輩は小さく頷いてそう言うと、ゆっくりと口を開く。

「……ごめん。僕は、お人形さんの好意に答えることはできない」

「……そう、ですか」

 わかりきっていた答えだった。

 私が俯きそうになると、日野川先輩は「でも!」と大きな声を上げる。

「それは今の僕が〝好き〟をわからないからであって、離れたくないという気持ちは、お人形さんと同じだと思う」

「え……」

 日野川先輩はそう言うと、こちらに歩み寄って、優しく私を抱きしめる。

 告白は断られたのに、なんで私、抱きしめられてるの……?

 私がこの状況に困惑していると、耳元で日野川先輩が囁く。


「だから僕は、お人形さんの笑顔を一番に見られるまで、お人形さんに会いに行くよ」


 聞き覚えのあるセリフだった。

 私は今まで、ずっと日野川先輩の立ち位置で練習を続けてきた。

 日野川先輩は私を抱きしめたまま続ける。

「それで、お人形さんに笑顔が戻ってきた後……僕にいろんな感情を教えてくれたお人形さんが、今度は僕に〝好き〟を教えてよ」

 自分の告白を振った相手に、〝好き〟とは何かを教える。端から見たら、それはとても変な会話だと思う。

 けれど、私には……それが日野川先輩の精一杯の本音だということが伝わってくる。

 〝好き〟を知らない日野川先輩が、私との縁を必死に繋ぎ止めようとしてくれている言葉。

 ……自惚れてしまっても、いいのかな。

 私はオリビアのように日野川先輩の背中に手を伸ばして告げる。

「……わかりました。私、日野川先輩が会いに来てくれるのを待っています。緞帳が下がって、私が日野川先輩に一番の笑顔を見せることができた後……日野川先輩に、〝好き〟を教えてあげます」