室谷さんはポカンと開いた口をパクパクと動かして、私に問いかける。

「……もしかして水葉先輩、自分で気づいてなかったんですかっ⁉ 部活中、二人であんなにイチャついてたのに⁉」

「い、イチャついてなんか……っ」

「め~っちゃイチャイチャしてたじゃないですかっ! 補習とか言って、二人っきりで部室に残る辺りからおかしいと思ってたんですよ! お弁当のときはいつも誠先輩の隣で食べてるし! 合宿の人狼ゲームでは私より誠先輩のこと信じるし! 先月の誠先輩のノートが破かれた日には、二人でキスしそうなくらい顔近づけてたし!」

 室谷さんは声を荒げ、怒涛の勢いで言葉を突きつける。

 なんか若干室谷さんの私怨が交ざってた気がするけど……。

 それに、室谷さんの指摘したほとんどは日野川先輩の方からしてきたことだ。

 お弁当だって、日野川先輩が勝手に私の隣に座って来て……。

 ……でも、じゃあこの熱は、なんて説明すればいいんだろう。

「蓮。ここお店の中だから」

 竹市さんは買い物客の何人かがこちらに注目していることに気づき、室谷さんの肩に手を乗せて止める。

 すると室谷さんは、まだ言い切れていないことを全て吐き出すように、大きく息をついた。

「……なんか、びっくりしましたよ。少女漫画の主人公並みに鈍感な人って、実際にいるんですね」

「で、でもそれを言ったら室谷さんだって、森くんのこと、す……っ」

 『好き』という単語を言い出すのが恥ずかしくて言葉に詰まっていると、室谷さんは大袈裟に肩を竦めて言う。

「私と優樹先輩は何というか、根本的に違うじゃないですか。私は優樹先輩のことを従妹のお兄ちゃん的な存在と思ってますし、きっと優樹先輩も私のこと異性として見てないですよ。……あ、でも莉帆は前、誠先輩が好きだったんだっけ?」

「え……っ」

 ドクンと、心臓が大きな音を立てる。

 ざわざわと落ち着かない気持ちになりながら、真偽を確かめるように竹市さんを見つめると、竹市さんは小さくため息をつく。

「だから違うってば。私が好きなのは〝日野川先輩〟じゃなくて、〝日野川先輩〟が描く物語の〝登場人物達〟。例えるなら、……そうだな。声優じゃなくて、その声優が演じるアニメのキャラクターが好き……みたいな」

「あぁ、そうだったそうだった。莉帆の初恋は、あの文化祭でやってた『天空への螺旋階段』の劇の、守くんだもんね」

 二人の会話を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。

 ……今、私、安心した?

 心の中でそう自問自答をして、自嘲気味に笑う。

 日野川先輩のことを思うと顔が熱くなって、竹市さんが日野川先輩のことが好きだったと聞いたら、胸が苦しくなって……。

 これではもう、言い訳もできそうにない。

 自覚してしまった。

 初めて日野川先輩の物語の世界に触れたあのときのように、それ以上にドキドキするこの思いが、何なのか。

 私は、——日野川先輩のことが、好きなんだ。

「それで? 結局、水葉先輩はいつ、誠先輩に告白するんですか?」

「告白すること、前提なんだ……」

「あったり前じゃないですか! 日野川先輩は三年生ですよ? 春には卒業しちゃうんですよ? 今のうちに繋ぎとめておかないと、大学で彼女ができちゃうかも……」

「日野川先輩、そんな恋愛に興味なさそうだけど」

「莉帆は黙ってて! ともかく、告白するなら早くしないとですよ! だって日野川先輩は、VD祭が終わったら——」