今日は雨。

 最寄り駅発七時二十八分の上り快速列車。

 私はいつものように三両目の車両に乗っている。

 手には透き通った空のような青い傘。

 あの人はこれに気づくだろうか。

 私は吊り革に掴まりながら流れていく窓の外の風景を眺める。

 どこで誰が見ているかわからないから、あえてあの人を探さない。

 でも、あの人はきっと私を見ている。

 この青い傘にも気づいてくれる。

 今日は雨。

 夫は仕事で家に帰らない。

 *

 今日は雨。

 青い傘は夫が家に帰ってこない日のサイン。

 あの人が家に来てもいいという合図。

 私は青い傘を持って車窓を眺める。

 あの人はきっと気づいてくれる。

 今日は雨。

 私は知らないふりをする。

 *

 今日は雨。

 家に帰ったときも雨は降り続けていた。

 でも、私は気持ちを高ぶらせている。

 もうじき、あの人が来る。

 今夜は眠れない。