数歩先に教室を出た林崎と作田に俺も続く。
教室を出る間際ふと足を止めてしまったのは、伊波の声が聞こえたからだ。


「なぎさいなくなっちゃうのヤダよぉー」
「あたし悲しすぎてもう学校来れないかも」
「なーに言ってんの!そんな悲しみは水平線の彼方に吹っ飛ばせばへっちゃらだよー」
「でもぉ……」
「きっとまたいつか会えるよ!大人になったら飛行機で遊びに来るし!沖縄と茨城なんて、地球規模で見たら近い方なんだからさ!それにこのご時世ネットがあるじゃん!」


この地を去るのは自分だというのに、どうしてそんなにも笑っていられるのか。
伊波のことだから、きっと故郷にはたくさんの友達がいるに違いない。
沖縄に帰ることはコイツにとって何の苦でもないのだろう。
寧ろ親の都合で一年間ここに滞在していたことの方が負担だったのかもしれない。


「隆也、何してんだよ」
「お、おう。今行く」


作田に呼ばれて俺は慌てて返事をする。
伊波は明日の終業式には出席しないので、今日が最後の登校日だ。
きっともう二度と会うことはないのだろう。
涙する友人らを宥める伊波を見て、この笑顔も見収めだな、なんて寂しいことを考えながら俺は教室を後にした。