渚便り【完】

三年ぶりに再会した伊波ともっと話したかった。
もっとその笑顔を見ていたかった。もっと一緒にいたかった。
しかし俺の思いに反して時間はそれを許してくれない。

伊波と向き合っていた俺が次に口を開こうとしたら、パーカーのポケットに入れていた携帯から聞こえてきた流行りのアーティストの曲が、空気の読めない着信を知らせた。
彼女からの電話だ。
正直無視してしまいたかったが、あとでうるさく言われるのは御免だ。

渋々電話に出れば、いたく俺を心配してる彼女の声が鼓膜に響いた。
そんなに大きな声出さなくて聞こえてるっつーの。
俺は少しだけ耳から携帯を離し、眉をしかめつつも会話を続ける。

なんでも帽子が見つかったらしい。
みんなが脱ぎ捨てた上着に埋もれていたそうだ。
オレの苦労は一体。しかしこうして伊波と再会することができたのだから、文句は言うまい。

ボリュームの調整に難有りな彼女の声はしっかりと周囲にもにも聞こえていたらしく、伊波はクスクスと笑っていた。