先輩も目を丸くしてしまうほどの技術を身につけられたのは、昔から私にサッカーを教えてくれているアニキのお陰に違いない。
そうやって心の中でアニキに感謝しながら、私はひたすらボールを追っていた。
部活に夢中になっているお陰で、アニキの彼女のことをあまり考えなくて済むようになったことは救いである。
しかし私がアニキに寄せている想いは相変わらずで、決して揺るぐことはなかった。

そんなある日。


「はあ!?茨城に転勤?」


あまりにも突拍子のないことだった。
父が夏から仕事の都合で沖縄を出ることになったのだ。
期間はあるらしいが、最短でも一年は戻ってこれないという。
会社側もまた中途半端な時期に余計な命令を突きつけてきたものだと、私は父と母の会話を聞きながら溜め息をついた。

単身赴任という選択肢はもちろんあったけど、父の要望で母は同行することになったそうだ。
というのも向こうには親戚がいるので、いい機会だとプラスに捉えているようで。
そして私が関東での生活を経験することも肯定的には考えているようだった。