大した距離もなくすぐに駄菓子屋の前に着いた俺達が自転車をとめていると、


「お、偶然だねぇ!」


その声に俺は心臓が跳ねた。聞き覚えのあるソプラノボイスに胸の鼓動が加速する。
声のした方を見やれば、驚くことに駄菓子屋から出てきたのは案の定伊波だった。
ピンク、青、黄色の三色に光る金平糖が入った小瓶を手に、右手をあげて笑いかけてきている。

まさか昨日で最後だと思っていた人物に鉢合わせたことに目を丸くしつつも、内心は嬉しくて堪らなかった。
駄菓子屋の存在に偶然気付いた作田に心底から感謝だ。
もちろん俺がその喜びを表に出すことはなかったけど。


「釣りしてきたの?」
「まあね~。全然釣れなかったけどさ。つーか伊波まだいたんだ。いつ沖縄帰るんだっけ?」
「明々後日だよ。だからそれまでここで思い出作りしてるわけ」


それならもっと観光名所を回るとか人で溢れ返っている都会特有の大通りに繰り出すとか、沖縄にないものを堪能していくべきなんじゃないのか。
と考えていたら、伊波は「ここお気に入りの場所でよく来てたんだよね」と補足した。
へえ、知らなかった。コイツはコイツで東京での景色を見収めしたいということか。

でも海なんて向こうではもっと綺麗で透き通ったものを嫌というほど拝めるはずなのに。
だからこそ比べる意味でこっちの海を目に焼き付けておきたいのなら話は別だけど。