地味で根暗で電信柱な私だけど、あなたを信じていいですか?

 やがて佐藤さんが私を解放し、爪先立ちしていたのをやめる。

 私はまだぼんやりとした意識のまま彼を見つめ、心に浮かんだことをそのまま言った。

「ずるい」
「ごめん」

 彼が応え、また背伸びすると今度は優しくキスしてきた。

 本当にずるい、と私は思う。

 でも、彼のキスは嫌ではなかった。むしろもっと欲しい。彼が私だけのものだと感じたい。

 誰にも盗られたくない。

 あなたは私のものだよね?

 信じていいよね?

 唇がまた離れていった。

 失われた温度が恋しくて堪らなくなる。私は身を低めて自分から唇を重ねた。

 狭いエレベーターの中で荒い息遣いといやらしい音が響く。もうさっきの女の子なんてどうでもいい。彼が欲しい。彼さえいてくれたら他はどうでもいい。

 エレベーターが次に開くまで私たちはお互いを求め合うのであった。
 
 
**本作はこれで終了です。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。