「清川」

 聞き覚えのある声に私ははっとする。

 完全に油断していたので、不意打ちみたいな声かけは勘弁してもらいたかった。だが、相手にそんな事情などわかるはずもなく、ニカッと笑う笑顔に出迎えられた。

 左エクボが昔の名残を感じさせる。ただ、やはり変わってしまった容貌はどうにも残念でならない。

 一体どんな人生を送ったらこんなに老けるのか。

「また会ったな」

 彼は嬉しそうに声を弾ませる。野太い声だが彼の喜びようは良く伝わった。

「そうだ、せっかくだからどこかで飯でもどうだ?」
「あ、いえ、私は」

 断ろうとしたが彼の圧のようなものがあってうまく返せなくなっていた。

 桜井くんが私の腕を掴む。

 電気が走ったかのように私はびくんとした。彼のことは昔好きだった。でもそれはあくまで昔の話だ。現在進行形ではない。

「良い店があるんだ。もし手持ちが心配なら気にするな。清川に払わせるつもりはねえよ」
「いや、そうじゃなくて、私は」