駅の構内に入ったとき佐藤さんのスマホが鳴った。

「あ、部長からだ」

 画面を確認した佐藤さんが私を見上げる。少し申し訳なさそうに彼は言った。

「すみません、ちょっとだけ待っててください」
「うん」

 彼は私に背を向け電話に応答する。聞こえてくる話の内容から新宿に大手書店が新規出店するらしいとわかった。

 はい、はい、と相槌を打ってから佐藤さんは通話を切る。振り返った彼はまた申し訳なさそうに眉を寄せた。

「ゆかりさん、もう五分待ってもらえますか? 部長命令で書店さんに連絡しないといけないんです」
「あ、私は大丈夫だから。もしあれなら離れてよっか?」

 場合によっては他店に聞かれたくないものもあるはずだ。

 佐藤さんはさらにすまなそうな表情になった。

「できればそうしてもらえますか。どこまでオープンにしていいか俺にもわからないんで」

 うん、と私は首肯して彼との距離をとる。

 駅構内の柱を背にしながら私は通話をする佐藤さんを眺めた。書店の中で商談する彼も素敵だが外でこうやって仕事をする姿もなかなかに捨て難い。私は自分がうっとりとしているのを自覚した。

 とはいえ、あんまり長く私を放置しないでね。

 なんて思っていると横から声がかかった。