魔界の華は夜に咲く

廃墟が立ち並ぶスラムは、少しずつ綺麗になっている。
腐った家や店を撤去し、新しい家を建てる予定だ。
そこに住む魔族達も一丸となって働いていた。
皆、充実している様で仕事中も楽しそうにしている人達ばかりだった。
セヴィオとセンジュ達はガルシアとその仲間達、そして子供たちに連れられて街を全て確認した。
ガルシアが街の様子を事細かに説明してくれた。

「東はセヴィオ様の支援で居住スペースを建設中だ。子供たちも暮らせるように遊び場も作ってる」

「へえ~」


センジュは楽しかった。暗かった街の雰囲気が少しずつ明るさを取り戻しているのを間近で見れたからだ。何より子供たちが嬉しそうに跳ねまわっている。それが嬉しかった。


「西はフォルノス様のおかげで今は病院などの施設を作ってるんだ。街に病院なんてなかったし、怪しいヤブしかいなかったからな」

「フォルノスが・・」


素直に感心してしまう。ちゃんと考えて作られているのだ。
キラキラと目を輝かせているセンジュに、セヴィオはまたモヤモヤしていた。
まるでフォルノスを想って目を輝かせている様に見えたのだ。


「そうそう昨日決定したんだが、南はエレヴォス様が資産から支援をしてくださって、北はアルヴァン様が・・」

「ええ!?」

それには2人一緒に驚いた。

「なんだあいつら便乗して」

「す、すごいね・・この街、四大魔将の息がかかってる感じ」

「ああ。逆に目立つだろうが・・全くあいつら何考えてんだ」


_負けず嫌いにも程があるだろ。


「まあ、有難い事なんですけど、他の街からブーイングが来るかもしれませんな」

「だな。後で伝えておく。ここの住民だって静かに暮らしたいだろうから」

「ハハハ、穏便に頼みます」


ガルシアは嬉しそうな笑みを浮かべながらセンジュを見つめた。


_全てはこの方と魔王様の為なんだろうが、それにしても熱の入れようが尋常じゃねえなあ。ハハハ。
いずれはこの方がこの魔界を統べるかもしれないって事だもんな。四大魔将の皆さんと。



全て廻り終え、センジュは頭を下げた。

「ガルシアさん、皆さん、今日は本当にありがとうございました」

「いやいや、礼を言うのはこっちだ。俺達に希望をくれたあんたのおかげだ」

「ね~もう帰っちゃうの~?」

「泊っていけばー?」

子供たちはずっとセンジュの足にしがみついている。


「おめえら、しつこくするな。姫さんもまだ仕事なんだ」

「だって~」

「もっと遊びたい~」


思わずキュンとしてセンジュはしゃがんだ。
とても懐いてくれたのだ。嬉しくないハズがない。

「また遊びに来るからね。だからそれまでいっぱい食べて、いっぱい遊んで元気にしててね」

「うん!そうする!」

「絶対そうする~~!!」


センジュ達は別れを惜しみながら街を後にした。
自分の手のひらに小さな手の感触が残っている。

「はあ、なんか寂しいね」

「またいつでも来れるだろ」

「そうだけどさ、別れの時ってなんでこんな気持ちになるんだろ」

「さぁな」


少し冷たい声が帰ってきた。
セヴィオの様子がおかしいのという事は感じ取っていた。ずっと何か思いつめている。


_セヴィオ、疲れちゃったのかな?気を使わせちゃったかもしれない。


不思議そうに首を傾げていると、隣にいたクロウが口を開いた。

「これからどうする?お茶する?」

「まだ仕事中だ」

さらっとセヴィオは拒否した。

「ええ?この前は良かったのに?」

「ああ、この前はな。今日はすぐに城に帰る約束なんだ。悪いな」


セヴィオが指をさした方向に城の馬車があった。

「えーつまんね~」

「来月から嫌でも顔合わすのに何言ってんだよ」

「あ、確かに」

「そうだった、忘れてた」

「おい」

センジュを先に馬車に乗せると、セヴィオは3人に告げた。

「今度会った時また話すけど・・大天使が動いてるらしい。お前らもあんまり気を抜くなよ」

「え・・マジか」

「ああ、センジュも狙われてる。お前らの力がホントに必要になる」

「マジか」

「大マジだ」


真剣な面持ちで4人は見つめ合った。魔族同士の争いも絶えないが、天使となると話は別格だ。


「頼むな」

「ああ、任せろ」

「おう」

「俺もやっぱ兵士になろうかな~」

というコーマに、ゼンが冗談ではない冗談をかました。

「今更無理だろ。とりあえず、今からタダで肉を食わせてくれ」

「タダは無理」

「タダがいい」

「タダは無理」


相変わらず楽しそうに話している3人にセヴィオは手を振った。

「じゃあまたな」

「ああ、じゃあな」


セヴィオが馬車に乗り込み合図を送ると、御者は城へと馬車を走らせた。