それから半刻ほどが経ち。
「・・・っ」
目を覚ました瞬間に驚いた。
目の前にフォルノスの顔が見えたからだ。
「起きたか」
起きた場所はフォルノスの膝枕だった。
フォルノスは部下達を部屋から出した後、ソファーに移動しセンジュを自分の膝に寝かせ目を覚ますまで待っていた。
「・・あのひと・・達は・・」
「第一声がそれか。偉くなったものだな」
「どうしたの・・」
「解雇を取りやめた。条件付きだがな」
ボロロ・・とセンジュの涙が頬を伝った。
「何故泣く」
「良かった・・ぐす・・よか・・」
「泣くな。喉に触る」
「誰の・・せい」
「自分のせいだろうが」
「・・嫌い」
「俺もだ」
フォルノスはセンジュの喉に指を当てた。
ほんのりと温かい何かがセンジュの首を覆った。
「何・・?」
「回復させている」
「そんな事・・出来るの?」
「他人の為に使った事は一度もないが」
_そんな力があるなら、きっと・・もっと人を救えるのに。どうしてなんだろう。どうして・・こんなに冷たい人になっちゃったんだろう。
「ジロジロ見るな。うっとおしい」
近くにあったタオルケットをセンジュの目の上に当てた。
「お前、変な事を言っていたな」
「・・変な事?」
「助けたいと」
「・・うん。変じゃないけど」
目を塞がれたセンジュには、フォルノスの声だけが聞こえる。
低く、響く声が耳に入ってくる。
「誰を助けたい」
「え・・っと」
_フォルノスの事も・・なんて言えない。けど・・あの辛そうで憎しみに満ちた表情をもう見たくない。
「俺の部下か?」
「・・うん・・魔界の人たち・・かな」
「ふん。急に大それた発言だな」
フォルノスは馬鹿にするように鼻で笑っている。
センジュはそれには反論することもなく、出来事を告げた。
「今日・・セヴィオと街に行ってさ・・スラムを見たよ」
「・・ああ。あそこか」
「言葉では表せない程・・苦しかった。さっきみたいに・・息が出来なかった」
「・・そうだな。腐った街だ」
「助けたいって思った。ただ・・それだけ」
_そっか、だからフォルノスの事も助けたいって思ったんだ。苦しそうな表情がスラムの人と重なったから。
自分の口から出た言葉に納得した。
それを聞いたフォルノスの指がセンジュから離れた。
しん・・
途端に静かになったフォルノスが気になり、目隠しを取ろうとしたが抑えられた。
「ちょ、何?」
「煩い、見るな」
「・・え?」
目隠しをされたまま体を起こされたセンジュは驚きで心臓が跳ねた。
突然温かいものに包まれた。
見えないがどうやらフォルノスの胸の中に埋められている様だった。
トクトクと少し早い鼓動がセンジュの耳に届いた。
「フォ・・フォルノス?」
フォルノスは黙って目を閉じたまま告げた。
「本気で消そうと思ったんだがな」
_だが出来なかった。人に期待などしたことのない俺が。こいつの言葉に惑わされるとは。
センジュはそのままフォルノスの顔をちらりと覗いた。
どんな顔をしているのか気になった。
初めて聞く切ない声が耳に届いたからだ。
_こんなフォルノス初めて見る・・信じられない・・。
ジッと覗き込む。
「・・なんだ」
「なにか・・困ってるの?」
「なんだそれは。そんなものはない」
「だって・・」
_さっきの声、凄く寂しそうだった。
「フォルノスには恋人とか、奥さんとかいないの?」
「居る訳ないだろう。他人を信用していないのに」
「ずっと一人?」
「だからなんだ」
「私はママと一緒に暮らしてたんだけど、2人だったけど、いつも笑顔で居てくれたママの為に、私も同じ様に接したくて家事の手伝いとかやってたんだよ」
「それがなんだ」
「大好きな人の為に何かしたいって思ったら、冷たい言葉なんて出てこないんだよ。むしろ笑顔になるっていうか・・」
「・・説教のつもりか」
「違う違う」
激しく首を横に振るセンジュの言葉をフォルノスは黙って聞いた。
「部下は道具じゃないよ」
「そんな事、わかっている」
「え?わかってるのに・・どうして冷たいの?」
「経験したからだ。何度も」
「どんな?」
「何度も裏切られた。信頼をよせたら裏切られる・・信じた者達からそう刷り込まれ、教えられた」
「ぇ・・・」
「死にそうになった事など今日が初めてじゃない。何度も何度も経験した。城の中でも外でもな」
「・・・」
それを聞きセンジュは愕然とした。
フォルノスの言葉に返す言葉が出てこなかった。
ズキリと胸が痛む。
「ご・・ごめん・・そうだよね。フォルノスは私なんかよりも魔界に詳しいのに」
「ああ、そうだな」
「今まで辛かったね・・」
「いや、別に」
センジュは顔を下げ、目を閉じた。
_酷いのは私の方だった。フォルノスの事何も知らないのに、偉そうに頬叩いちゃった。
何度も命を狙われたから部下にはそう接しようって決心したんだ。
なのに私・・。ああ・・サイテー。
一気に落ち込んだ様子のセンジュに、フォルノスは声を殺して笑った。
「まさか落ち込んでいるのか?」
「・・うん・・ごめん。頬・・叩いちゃった」
「ククク・・」
「な、なんで笑うの・・」
センジュはまた泣き出しそうにフォルノスを見上げた。
本人は本気でショックを受けている。
フォルノスはその溜まった涙を人差し指で拭った。
「ほんの少し・・」
「え?」
「女という生き物を可愛いと思えた・・こんな感情は初めてだな」
ドキン
その言葉にセンジュの顔がカッと燃えた。
「ほんの少しな。・・今でも他人は道具にしか見えない。部下も、女も。」
その言葉に先日聞いてしまったフォルノスの夜の出来事を思い出す。
まるで道具の様に侍女を抱いていたからだ。
_エレヴォスさんも言ってた。女を道具としか見てないって。
大きな手でセンジュの頭を掬い取るようにしてフォルノスはセンジュをその胸に抱いた。
「お前は・・どうやら少し違うらしい」
「フォ・・」
その言葉と行動に体が跳ねた。
「・・・っ」
目を覚ました瞬間に驚いた。
目の前にフォルノスの顔が見えたからだ。
「起きたか」
起きた場所はフォルノスの膝枕だった。
フォルノスは部下達を部屋から出した後、ソファーに移動しセンジュを自分の膝に寝かせ目を覚ますまで待っていた。
「・・あのひと・・達は・・」
「第一声がそれか。偉くなったものだな」
「どうしたの・・」
「解雇を取りやめた。条件付きだがな」
ボロロ・・とセンジュの涙が頬を伝った。
「何故泣く」
「良かった・・ぐす・・よか・・」
「泣くな。喉に触る」
「誰の・・せい」
「自分のせいだろうが」
「・・嫌い」
「俺もだ」
フォルノスはセンジュの喉に指を当てた。
ほんのりと温かい何かがセンジュの首を覆った。
「何・・?」
「回復させている」
「そんな事・・出来るの?」
「他人の為に使った事は一度もないが」
_そんな力があるなら、きっと・・もっと人を救えるのに。どうしてなんだろう。どうして・・こんなに冷たい人になっちゃったんだろう。
「ジロジロ見るな。うっとおしい」
近くにあったタオルケットをセンジュの目の上に当てた。
「お前、変な事を言っていたな」
「・・変な事?」
「助けたいと」
「・・うん。変じゃないけど」
目を塞がれたセンジュには、フォルノスの声だけが聞こえる。
低く、響く声が耳に入ってくる。
「誰を助けたい」
「え・・っと」
_フォルノスの事も・・なんて言えない。けど・・あの辛そうで憎しみに満ちた表情をもう見たくない。
「俺の部下か?」
「・・うん・・魔界の人たち・・かな」
「ふん。急に大それた発言だな」
フォルノスは馬鹿にするように鼻で笑っている。
センジュはそれには反論することもなく、出来事を告げた。
「今日・・セヴィオと街に行ってさ・・スラムを見たよ」
「・・ああ。あそこか」
「言葉では表せない程・・苦しかった。さっきみたいに・・息が出来なかった」
「・・そうだな。腐った街だ」
「助けたいって思った。ただ・・それだけ」
_そっか、だからフォルノスの事も助けたいって思ったんだ。苦しそうな表情がスラムの人と重なったから。
自分の口から出た言葉に納得した。
それを聞いたフォルノスの指がセンジュから離れた。
しん・・
途端に静かになったフォルノスが気になり、目隠しを取ろうとしたが抑えられた。
「ちょ、何?」
「煩い、見るな」
「・・え?」
目隠しをされたまま体を起こされたセンジュは驚きで心臓が跳ねた。
突然温かいものに包まれた。
見えないがどうやらフォルノスの胸の中に埋められている様だった。
トクトクと少し早い鼓動がセンジュの耳に届いた。
「フォ・・フォルノス?」
フォルノスは黙って目を閉じたまま告げた。
「本気で消そうと思ったんだがな」
_だが出来なかった。人に期待などしたことのない俺が。こいつの言葉に惑わされるとは。
センジュはそのままフォルノスの顔をちらりと覗いた。
どんな顔をしているのか気になった。
初めて聞く切ない声が耳に届いたからだ。
_こんなフォルノス初めて見る・・信じられない・・。
ジッと覗き込む。
「・・なんだ」
「なにか・・困ってるの?」
「なんだそれは。そんなものはない」
「だって・・」
_さっきの声、凄く寂しそうだった。
「フォルノスには恋人とか、奥さんとかいないの?」
「居る訳ないだろう。他人を信用していないのに」
「ずっと一人?」
「だからなんだ」
「私はママと一緒に暮らしてたんだけど、2人だったけど、いつも笑顔で居てくれたママの為に、私も同じ様に接したくて家事の手伝いとかやってたんだよ」
「それがなんだ」
「大好きな人の為に何かしたいって思ったら、冷たい言葉なんて出てこないんだよ。むしろ笑顔になるっていうか・・」
「・・説教のつもりか」
「違う違う」
激しく首を横に振るセンジュの言葉をフォルノスは黙って聞いた。
「部下は道具じゃないよ」
「そんな事、わかっている」
「え?わかってるのに・・どうして冷たいの?」
「経験したからだ。何度も」
「どんな?」
「何度も裏切られた。信頼をよせたら裏切られる・・信じた者達からそう刷り込まれ、教えられた」
「ぇ・・・」
「死にそうになった事など今日が初めてじゃない。何度も何度も経験した。城の中でも外でもな」
「・・・」
それを聞きセンジュは愕然とした。
フォルノスの言葉に返す言葉が出てこなかった。
ズキリと胸が痛む。
「ご・・ごめん・・そうだよね。フォルノスは私なんかよりも魔界に詳しいのに」
「ああ、そうだな」
「今まで辛かったね・・」
「いや、別に」
センジュは顔を下げ、目を閉じた。
_酷いのは私の方だった。フォルノスの事何も知らないのに、偉そうに頬叩いちゃった。
何度も命を狙われたから部下にはそう接しようって決心したんだ。
なのに私・・。ああ・・サイテー。
一気に落ち込んだ様子のセンジュに、フォルノスは声を殺して笑った。
「まさか落ち込んでいるのか?」
「・・うん・・ごめん。頬・・叩いちゃった」
「ククク・・」
「な、なんで笑うの・・」
センジュはまた泣き出しそうにフォルノスを見上げた。
本人は本気でショックを受けている。
フォルノスはその溜まった涙を人差し指で拭った。
「ほんの少し・・」
「え?」
「女という生き物を可愛いと思えた・・こんな感情は初めてだな」
ドキン
その言葉にセンジュの顔がカッと燃えた。
「ほんの少しな。・・今でも他人は道具にしか見えない。部下も、女も。」
その言葉に先日聞いてしまったフォルノスの夜の出来事を思い出す。
まるで道具の様に侍女を抱いていたからだ。
_エレヴォスさんも言ってた。女を道具としか見てないって。
大きな手でセンジュの頭を掬い取るようにしてフォルノスはセンジュをその胸に抱いた。
「お前は・・どうやら少し違うらしい」
「フォ・・」
その言葉と行動に体が跳ねた。


