患者を観察しやすいようにと、円形のドーナツのように作られたフロアは、真ん中がナースステーションだ。
その周りにベッドが配置してあり、各部屋に心電図モニターや医療機器類がある。
ナースステーションの中央には患者名と疾患、主治医の名前がホワイトボードに一覧として書かれている。


ホワイトボードの前には、先ほどの女性スタッフと同じ制服を着た俺のよく知る人物がいた。

「あ、お疲れ様です。ラウンドですか?」

交際中の彼女、春香だ。

上下に分かれた白衣を着用し、肩の下まで伸びたブラウンの髪はさきほどの女性スタッフ同様にお団子にまとめられている。
起きた時に薄かった眉は化粧で描かれていた。

「まぁそんなところ」

彼女の隣に立ち、ホワイトボードの疾患名を見る。

「今日は忙しい?」
「まぁまぁですね。朝から入院2件来たので」
「なにが来た?」
「脳幹梗塞とAMIです」
「入院引くねぇ、春香ちゃんは」

冷やかし交じりに名前を呼ぶと、彼女はキッ!と一瞬だけ睨みをきかせた。


「人が気にしてること言わないでくださいね?」


ニッコリと笑いながら言われたが、目がマジで笑ってない。


おうおう、怖い怖い。
職場で名前を呼ぶと、いつもこうだ。
誰も周りで聞いてないからいいと思ったのにさ。