「こちらの件はこれでよろしいでしょうか?」

耳の下あたりでお団子にまとめられたこげ茶の髪。
白い制服姿の女性にハキハキとした声で確認を求められ、俺はパソコン上に並ぶ数値に目を通す。

「ん、大丈夫。今日はそれでやっといて」

頭の中で瞬時に考え、目の前の相手に指示を出すと、お団子姿の女性は軽く一礼をして早足に去っていった。
大方他のスタッフへ指示や俺が今言ったことの報告をするのだろう。

自分が操作しているパソコン上の時間を見ると、午前12時前。

「そろそろICU行くか……」

キリのいいところで電子カルテの入力を終わらせ、パソコンをログアウト。
キャスター付きの椅子を机の奥まで戻して、一般病棟のナースステーションを出る。


ここは俺の職場の病院の4階。
一般病棟で主に循環器や心臓外科といった疾患の患者が入院している。

職場である病院は地方にある政令指定都市の繁華街から少し離れた場所に立つ。
400床ちょっとの中規模な私立病院。
全国各地に系列病院があり、企業としては大きい。
2次救急を24時間受け付けており、それなりに忙しいところだ。

すれ違うスタッフや患者さんに会釈をしながら、職員が使用する階段で3階へ向かった。

左右に開く自動扉を通って、3階にある集中治療室、いわゆるICUに入る。

「お疲れ様です」

近くにいた新人の看護師さんから挨拶が飛んできた。

「おつかれー」

軽く返事をしながら、ICU内のナースステーションまで向かう。