そうだ、この世界で二次元アイドルを生み出せばいいんだ!!
そう思いついたのは二次元アイドル欠乏症が限界を迎え、やけくそになってしまった時だった。
さっそく私の萌えポイントを詰め込んだキャラクターを作ろう!と意気込んだが、この夢は叶わないのだとすぐに知ることになる。
なぜなら、この世界にはスマホやビデオゲームはもちろん、テレビもなかったからだ。
二次元アイドルが小説や漫画でも活躍できるのは知っていたけれど、有彩は歌って踊って動く二次元アイドルが好きなのだ。当然納得できなかった。
「ルフレオー、ここってアイドルはいるの?」
「アイドル?」
あ、いない感じね。
聞き返されたということはこちらにはそのような存在はいないということ。
もしアイドルがいるなら諦めてそっちに貢ぐのに…。
「じゃあ、なんかこう…、パフォーマンスをしてお客さんを喜ばせる職業は?」
「パフォーマンス、というと歌手や大道芸人のことか?」
「あーー。」
ここには歌の概念はあるけれど、踊りを見て楽しむ文化はないようだ。
歌もいかに上手く歌えるかが重要で、アップテンポの曲は存在しないそう。
こうなったら二次元アイドルを生み出す前に、アイドルを世に普及しなくては…!
謎の使命感を得た私は、ルフレオとエリィさんにアイドルというものがどんなものかを説明し、ここで再現したいということを伝えた。
そして返ってきた言葉は、こうだった。
「アーミューに相談したらいいと思う。」
魔法の付与が上手かったり、発明を好んだりする人はそこそこいるけれど、どちらも兼ね揃えている人はあまりいないらしい。
その点、アーミューはラズリエル学園で魔法付与を専攻しており、発明家として勲章をもらっている。
「あの人かぁ…。」
存在感があまりないのに、ぐいぐい質問してくる変な人。そんな印象だ。
あまり得意ではなさそうだけれど、仕方がない。
スマホを解体されないようにだけ気をつけて協力してもらおう。
…ということで翌日、アーミューが好んで使っている実験室に向かった。
実験室に入ると、イスを並べた上に寝そべったアーミュー1人がいた。
「あれ、お客さん?珍しいねー…っていたたたた…。」
私とルフレオを見たアーミューは起き上がろうとしたけれど、イスがズレて尻もちをついた。
「よいせっと。僕に何の用かな?不思議な機械を持つ黒眼ちゃんと天才騎士さま?」
「えっと…、」
事前に確認して、アーミューには私が召喚されて来たことを話すことにしてある。
だから日本の話やスマホ、二次元アイドルの話を全て大雑把に説明する。
…といっても支離滅裂になってしまった気がする。
それでも発明家なだけあるアーミューは、私が話した情報を繋ぎ合わせて理解してくれたようだ。
「うん、いいよ!僕に黒眼ちゃんの知識と持ち物を売って!」
キラキラした瞳で快諾してくれた。
ルフレオからもおそらく問題はないだろうと言われていたので、驚きはしないけれど。
「あ、ちなみにだけど…。」
アーミューが実験室の奥の部屋から両手で持ち運べるくらいの機械を持ってきた。
「これ多分、黒眼ちゃんが言ってたやつと似てると思うよ?」
使い方を聞いてみると、録音機であることが判明した。
まだ持ち運びには不便そうだけれど、十分活躍してくれそうだ。
「ありがとうございます!」
「黒眼ちゃんの知識はたまらなくおいしそうだからねっ!僕も出し惜しみしないよ。」
にこにことしたアーミューは優しい眼と同様の雰囲気をまとっていた。
あの質問攻めしている時のような圧はない。
「ところで、そのアイドルってやつはかっこいい人とかかわいい人がやるんでしょ?誰がやるか決まってるの?」
「…いえ、まったく。」
正直ただの思いつきなのだ。
考えているはずがない。
「じゃあ僕立候補!」
「え!?」
「だめ?僕ちゃんと身なり整えたら結構イケる方だと思うんだけどな。」
確かにアーミューは何も身なりに気を遣っている様子はない。
暗い青色の髪は無造作にセットされている…とはお世辞にも言い難いボサボサヘアーだし、制服もシワがたくさんできている。
「変身っ!」
何故か掛け声をつけて魔法を使ったアーミュー。
一瞬で髪型がセットされ、制服も新品のように綺麗な状態になった。
「…やっぱ風魔法はしんどいなぁ。」
「風魔法…?」
「髪型を変えるのに使った魔法が風属性のもの。制服は水属性と風属性の併用だろう。」
「なるほど。」
ルフレオの補足があってまったくわからなかった魔法がほんの少しわかった気がした。
もちろん私には使えないけれど。
「でもほら!これなら問題ないでしょ!?」
アーミューはくるんと一回りして見せる。
確かにどこから見ても正統派な王子キャラのような見た目だ。
ただ…。
「ルフレオのが、かっこいいよね。」
「それはひどくない!?比較対象がおかしいと思う!」
「褒められて悪い気はしないが。」
制服である白いブレザーと銀髪がとても似合っているし、オッドアイはこの世のものと思えないくらい美しい。
足もスラッと長く、あまり見た目ではわからないけれど騎士をやっているからおそらく筋肉もしっかりとついているだろう。
そんなルフレオをいつも見ている身としては、比較してしまうのは仕方がないだろう。
「…とりあえず、誰がやるかは保留で。」
「えー!」
部屋に持ち帰って考えることに決めたのだった。



