「もう無理…。」
「何が。」
今日受ける予定だった授業が全て終わり、気が緩んだ私は机に突っ伏した。
学園に通い始めてから5日ほど経った。
いろいろな初歩的な授業は大変わかりやすく、興味深いものばかりで全く苦ではなかった。
友人はできていないけれど、常にルフレオが一緒にいてくれるからこちらも問題はない。
しかし私はストレス過多でげっそりとしていた。
「ゲームがしたいぃ…。」
「ゲーム?すればいいのでは。」
ルフレオが何を言ってるんだといった様子でこちらを見ていることがひしひしと伝わってくる。
できたらこんなに辛い思いをしてません!!
おそらく私が言っているゲームと、ルフレオが認識しているゲームでは示しているものが異なる。
翻訳魔法を介している訳だし。
「私が言ってるのは!こういうのでやれる1人用のゲーム!多分ルフレオが思ってるものと違う!」
つい常に持ち歩いているスマホを取り出し、ルフレオに抗議してしまう。
意味がないことくらいわかっているのに。
「確かにそのようなものは見たことはないが。」
「見てよ、この美しいお姿を!そして聞いて!この美声を!!」
講義室の中に人の気配がなくなっていたから、画面を操作してキャラソンを流す。
はぅぅっ…!
いつ聞いてもイケボ…!!
特にこの『塗り替え〜♪』の"か"のかすれ具合がすばらしい!!!
しかし聞きすぎて歌詞を暗記するどころじゃない。
いくら音楽がたくさん入っているからって、有限だ。
こんなことになるのなら、もっとたくさんスマホに入れておくべきだった。
「…これほどのものがあれば別に問題はないのでは。」
「聞き飽きた!もっと違うイケボを聞きたいの!」
「うーん、付与魔法の形跡がこんなに見えないのにその性能…。内部に細かいパーツが…?いやでも…。」
「え…?」
人が、いた。
いないと思ってたのに。
というかこの人、気配薄すぎでは…?
私のすぐ右後ろにいる彼はじーっと私のスマホを観察している。
その様子からして、独り言を漏らす前から私の右後ろにいたのだろう。
全く気づかなかった。おそろしい。
「ねぇ、それ見せてくれない?そしてあわよくば分解させて…!」
「え。」
両手をこちらに出してきた彼から遠ざかるように体を引いてしまった。
スマホ壊されたら二次元アイドル成分を摂取できなくなってしまう。
そんなことは許さない。
「お願いします!」
「無理です。」
「そこを何とか!」
ちらりとルフレオを見る。
それだけで言いたいことは伝わったようで、さっと私と分解希望者の間に動いてくれる。
「これは彼女の大切な人の形見です。お引き取り願います。」
形見って。いや確かにある意味最新の二次元アイドル様に会えなくなったから形見のようなものだけれども!
翻訳魔法、仕事しろ!
「じゃあ質問!」
めげない分解希望者は、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
…が半分以上答えられそうにない。
そもそもこれ、魔法で動いてないし。
「ところで、あなたは誰ですか。」
質問を全て無視して、こちらから問いかける。
これだけぐいぐい来ているのだから、名乗ってくれてもいいはず。
「僕のこと知らない人もいるんだ。…それもそうか。
僕はアーミュー。これでも国王陛下に勲章をいただいたことのあるすごい発明家なんだよ!」
勲章をもらえるということがどれほどすごいのかはわからないけれど、様子からして相当有名なことはわかった。
アーミューは暗い青色で肩につくくらいの長めの髪をした男の人。
瞳は黄色、かな。光の当たり具合によっては金色にも見えそうだ。
たれ目がちの大きな眼は優しそうな雰囲気を醸し出している。
「とりあえず僕はもう行くから!また会おうね!」
「……。」
別にもう会わなくていいかも、と思ったけれど、流石に口に出さなかった。
急いだ様子のアーミューは机に足をひっかけてしまったのか、転びそうになりながら講義室から出ていった。
…何だったんだ、一体。



