異世界に召喚されたので、アイドル育成はじめました。


 「ここが、ラズリエル学園…!」


 魔法が付与されたブレスレットを2度叩くと、事前に説明されていたとおりに門の前にワープした。



 このブレスレットはラズリエル学園に通う人が任意で購入できるものらしい。


 指定された所にワープできるという便利なものだけれど、付与が難しいらしく相当高価なものなのだとか。



 私はここのお金のこともわからないし、何もしなくても国が支払ってくれるから実感がないんだけど。




 ブレスレットを2度叩くとラズリエル学園に、3度叩くと自分の部屋の前に飛ぶように設定してくれた。


 1度叩いた時にワープしないのは、誤作動を防ぐためらしい。




 これのおかげで、お城に出入りするところを見られずに済む。


 できれば国に保護されていることは隠して通いたい。


 バレたら大変なことになること間違いなしだ。




 「ミャアリサ様、いつまでそこにいるのですか。」


 「あ、ごめんなさい!今行きます。」



 いつもとは違う制服を身にまとったルフレオさんに呼ばれ、門をくぐる。



 まずは学園長に話を聞きにいかなければならないと聞いたから、ルフレオさんに案内してもらいながら目的地に向かう。






 「ここです。」


 「ありがとうございます。」


 案内してくれたお礼を言って、中に入る。


 後ろからついてくる気配がしたから、今回は一緒に来てくれるようだ。




 ルフレオさんに習って挨拶をし、ラズリエル学園での生活について説明してもらう。



 ラズリエル学園は自分で好きな授業を選んで受け、最終的に教授の誰かに試験をしてもらうことで卒業できるシステムらしい。


 授業が選べるという点では大学に似ているけれど、必修科目も存在しないこちらの方が圧倒的に自由度は高そうだ。


 また大学は卒業するまで大体は4年通わなければならないけれど、こちらは試験をして認められれば卒業できる。通う期間も自由だ。




 「まずは様々な授業を受けてみて、自分の興味のあることや得意なことを探してみてください。ラズリエル学園は貴女方の入学を歓迎します。」


 にっこりと微笑む学園長を見て、本当に歓迎してくれているのだとわかる。



 お礼を言って退出し、次は事務棟に向かう。




 向かっている途中、学園の中心部にある中庭あたりできゃあきゃあと黄色い声が聞こえてきた。


 「エルヴィッドさまの好きなマドレーヌを焼いたの!」


 「ネリアルフさま、本日は何をなさるの!?」


 女の人に囲まれた2人の男性をつい見てしまう。



 1人はラベンダーのような鮮やかな紫色の長髪をなびかせている綺麗な人。


 どこを見ているのかわからない憂いを帯びたエメラルドグリーンの瞳が印象的だ。



 対してもう一人は赤っぽい短い髪が似合う褐色の男性。


 左目の上下にまたがるように不思議なタトゥーのようなものが施されていて、鋭い深紅の瞳が少し怖い印象を与えている。



 「まだいるのか…。」


 「知っているのですか?」


 「私が以前通っていたときも彼らはいました。エルフと魔族の有名な2人組です。」


 エルフと、魔族…。


 日本では空想の世界にしかいなかった種族を目の当たりにすることができるなんて。



 二次元アイドルでもエルフや魔族をモチーフにした人々がいたから、ついついそのキャラ達を思い浮かべてしまう。




 あぁ、二次元アイドルに会いたい(画面越しで)。


 リアルで出会うエルフや魔族より、画面の向こうにいる崇拝対象に会いたいです。




 …駄目駄目。


 二次元アイドルのことは考えないようにしなくては。


 思い出す度に辛くなってしまうから。




 無理矢理思考を押し込めて、ふと気づいたことをルフレオさんに言う。



 「ルフレオさんって、敬語以外も話せるのですね。」



 「…すみません。独り言だと思って流してください。」


 「あ、いや、怒りたい訳じゃなくて。できれば敬語なしで話したくて。」



 だって、ルフレオさんはエリートの中のエリートな人。


 そんな人に敬語を使われていたら、明らかにおかしいよね。



 敬語で話しているのしか聞いたことなかったから普段から敬語を話しているのかと思っていたけれど、そんな訳でもないみたいだし。



 「いいのですか?」


 「はい。むしろお願いします。」



 「…わかった。ミャアリサ様も敬語は使わなくていい。」


 「あ、様付けもなしでお願い。有彩って呼んで。」



 「アリサ。」



 うっわ…。


 綺麗すぎるオッドアイがこちらを見つめたままに発された名前に、どぎまぎしてしまう。



 かっこよすぎて、駄目です。




 「あ、ありがとうございます…!」



 「…何が。」


 ついお礼の言葉が漏れてしまった。


 これは仕方ない。うん、仕方ない。




 「何でもない!行こう!」



 ルフレオを促して、再び事務棟へと向かう足を動かしたのだった。