ルフレオさんの指導のおかげで、小規模の魔法なら簡単に使えるようになった頃。
ラズリエル学園への入学日が決まった。
日本で着たらコスプレだと判断されそうな装飾たっぷりの制服をエリィさんから見せてもらう。
ここではどんな職業にも制服が存在しているらしい。
制服といっても、エプロンのデザインが指定されているだけだったり、紋章をつけるだけだったりと様々だ。
もはや制服ではない。
学生の制服はブレザーなのだとか。
ブレザーのみを指定されているから、上着以外の服は自由なところが多いそう。
しかし私が通うのは国1番の学園。
ブレザー以外の服も指定されていた。
ブレザー以外のものは様々な色やデザインのものが指定されていて、好きなものを選べるようになっていた。
勝手にブレザーにはリボンやネクタイが必須だと思っていたから、そこも自由なことに少し驚いた。
まぁ日本と同じな訳ないよね。
指定のブレザーが真っ白な生地だったから、私はグレーのワンピースを選んだ。
1番地味なものを選んだけれど、それでもフリルやリボンが施されていてかわいくなっている。
日本の分類で言うなら、クラシックロリータに入るだろう。
上品ではあるけれど、どう見てもかわいいが強い。
既に大学生になっていたから、制服はもう卒業したはずだったのに。
こんなにもかわいい制服を着ることになるとは…。
エリィさんが魔法をかけている制服を見ながら、苦笑いをしてしまう。
「エリィさん、何をしてるんですか?」
「着心地が良くなるように、少しだけ手を加えているのですよ。」
魔法、便利だな。
元の状態に戻す魔法は私もできるようになったから、もし気に入らなかったらそれで直せばいい。
「…これでよし、と。ミャアリサ様、こちらに着替えていただけますか?」
「わかりました。」
一度お付きの人たち全員に退出してもらって、制服に着替える。
うん、ピッタリサイズだ。
さすがオーダーメイド。
ドアを開けて着替えたことを伝えると、エリィさんに指示を受けた世話係さんたちがせかせかと私に身支度をさせてくる。
ヘアアレンジを施されたり、靴を履き替えさせられたり。
「あの、試着にここまでする必要があるんですか?」
「試着?…あぁ、そういえばお伝えしておりませんでしたね。本日は国王陛下とお会いしていただくのですよ。」
「え?」
突然のビッグイベントにたじろぐ。
私がここに来ることになった原因の人で、召喚されたあとに手厚く保護してくれた人。
そんな人と会うなら、もっと早く教えてほしかった。
国王たちのせいで、スイラメのキャラを含む私の最愛の人たちと永遠の別れをすることになったのだから。
どんな文句を言ってやるか考えてから会いたかった。
一応国のトップに文句を言うのだから、言葉選びくらいはしてあげるつもりだったのに。
そんな時間もなさそうだ。
ちなみに今はなんとか機内モードでも使える写真や音楽のデータをヘビロテして気を紛らわせている。
魔法が万能なおかげで、時間はものすごくかかるけれどスマホの充電はできた。
インターネットに繋げることはどうイメージしてもできなかったけれど…。
「準備が終わりました。ここからはルフレオ様に案内していただきます。」
エリィさんと部屋で別れ、ルフレオさんについていく。
ここに来てからほとんどもらった部屋に引きこもっていたから、全然道がわからない。
ルフレオさんがいなかったら確実に迷子だ。
「こちらです。」
ルフレオさんが指した扉は、私がもらった部屋の扉とほとんど変わらないものだった。
なんかこう、もっと重厚な扉に案内されると思っていたから拍子抜けだ。
ルフレオさんは中に入らないようなので、1人で中に入る。
「ミャアリサ様ですね。」
「あ、はい。」
中にはマントを羽織った男の人が1人だけいた。
年は40代くらいだろうか。そこまでお年寄りには見えない。
男の人に促されるまま、向かいの席に座る。
「この度は本当に申し訳ないことをしました。」
椅子から立って、深々と頭を下げてくる男性。
状況的に、この人が国王なのだと察する。
「ミャアリサ様には、本当に取り返しのつかないことをしてしまいました。軽率な判断をする前に、熟考すべきでした。誠に申し訳ございません。」
「………。」
ここまで丁寧に頭を下げられてしまうと、文句を言う気も失せてくる。
私から二次元アイドルと日本での生活を奪ったのはこの人が原因だけれど、今はしっかりと手厚い保護を受けている。
保護されていなかったらいくらでも文句を言えたのに。
「もういいです。受け入れました。」
「そう言ってくださると助かります。ラズリエルはミャアリサ様にはどんなことでもする所存です。是非とも頼ってください。」
「はぁ。」
「ラズリエルはですね、―――」
この後長々とラズリエルの歴史を語られ、その上で私に尽くすという誓いを延々と聞かされたのだった。



