「それでは、こちらの世界についてお話いたしますね。」
エリィさんが優しく微笑みながら話し始める。
ここはラズリエルという国で、この世界では最も栄えていると言われている大国だそうだ。
国王が定期的に代わり、独裁国家にならないようにしているらしい。
だから前国王様方って変な言い回しが使われていたんだね。
国王とはいっても血筋で選ばれている訳ではないみたい。
この世界では魔法が当たり前に使用されていて、日本で言うなら電気にあたる便利なものとなっているようだ。
魔法はその場限りで使用する場合と半永久的に使用する場合でやり方が異なる。
その場限りの場合は、魔力を込めてイメージするだけ。
イメージを維持している間は魔法として具現化できるらしい。
誰にでも比較的簡単に使えて、特に詠唱などはいらないようだ。
先程見せてもらった泥水の魔法も、手をかざしただけで発動できていたしね。
対して半永久的に使用する場合は、魔法を何かに付与しなくてはならないそう。
こちらの方が難易度が高く、しっかり教わらないと上手く使えないそうだ。
また、一度付与すると魔法の中身を変えられないらしい。
私にも魔法が使えるのかな?と思い、エリィさんに聞いてみたところ。
「ミャアリサ様、何をおっしゃっているのですか?既に使っているじゃないですか。」
と言われた。
「こうして意思疎通ができているのはミャアリサ様の魔法のおかげでございます。」
「私が、翻訳魔法的なのを使っている、ということですか…?」
「はい。無意識に使用なさっているとはさすがでございます。」
全く魔法を使っているという感覚がなかったから、試しにその翻訳魔法を切ってみようとする。
ただ翻訳魔法がどのようなものかイメージできなかったから、薄い膜のようなもので自分を囲うイメージをした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
エリィさんの口の動きと音声が初めて一致した。
なんて言ってるかは全くわからないけれど。
この魔法のせいで吹き替え映画のようになっていたのだとわかる。
薄い膜を霧散させるイメージをすると、エリィさんが話している言葉が日本語に変わる。
しかしまだ吹き替え映画のように口の動きと音声が微妙にズレている。
もしかしたらしっかりとイメージしたらこのズレもなくなるかも、と思い、試してみる。
エリィさん達の世界に、自分が溶け込むようなイメージ…。
「ミャアリサ様?目を閉じて何をしていらっしゃるのですか?」
エリィさんの声が聞こえて、自分が目を閉じているのだとわかる。
なんだかイメージする時は目をつむった方がやりやすいみたいだ。
目を開けてからエリィさんに返事をする。
「何でもないです。」
「あら?こちらの言葉を覚えたのですか?先程までの違和感がなくなりました。」
溶け込むイメージが上手く働いたようだ。
エリィさんの口の動きと音声が一致した。
エリィさんから見ても違和感がなくなったみたいだし、大成功だ。
「ミャアリサ様は黒い瞳をお持ちですものね。」
「黒い瞳?」
「得意な魔法は瞳の色でわかるのです。」
茶色の瞳を持つ人は地属性の魔法が、青い瞳の人は水属性、緑の瞳の人は風属性、赤い瞳の人は火属性の魔法が得意なのだそうだ。
色が濃い方が適正が高く、より強力な魔法が使えるらしい。
「じゃあエリィさんは水属性が得意ということですか?」
「はい。だから先程泥水を出させていただきました。」
「ルフレオさんは…?」
ルフレオさんは青と薄緑の瞳を持つ。
オッドアイの場合は濃い色の方が適正なのだろうか。
それともどちらか決まった方の瞳の色が適正となるのだろうか。
「オッドアイの人は2つの属性が得意ですよ。」
「私は水属性と風属性の魔法が得意です。」
微笑むエリィさんと冷たい態度のルフレオさん。
ルフレオさん、水より氷の方が似合う気が…。
あ、でも氷属性なんてものはなかったから氷も水属性の魔法にあたるのかな。
「2種の精霊に祝福を受けているオッドアイの方は大変珍しいのですよ。」
「…漆黒の瞳を持つ人よりは珍しくないでしょう。」
「そうですね。ミャアリサ様のような瞳は見たことがありません。」
日本ではたくさんいますよ。黒い瞳の人。
ここでは黒い瞳を持つ人は属性魔法にあたらない全ての魔法が得意だと仮定されているらしい。
私が無意識の内に使っている翻訳魔法も非属性魔法だ。
黒い瞳の人は本当に少ないらしく、何ができるのかいまいちわかっていないそうだ。
「純粋な黒い瞳ではなく、青みがかった黒などの瞳は珍しくはないのですが、そういう瞳を持つ方も属性魔法に適しているようで…。」
純粋な黒い瞳は相当珍しいのだと言われる。
私からしたらエリィさんのような色のついた瞳やオッドアイの方が綺麗だし、うらやましいんだけどな。
そんなことを言っても瞳を取り替えられる訳でもないから心の中にしまっておいた。



