異世界に召喚されたので、アイドル育成はじめました。


 「こちらがあなたの為に用意された使用人達です。」

 朝早く知らない女性に優しく起こされたと思ったら、昨日色々説明をしてくれた黄緑髪が部屋に入ってきて、モノクロの服に身を包んだ人々を紹介してくれた。


 人数は10人ほどで、女性が7人と男性が3人。

 彼らの主な仕事は昨日言っていた私の世話と護衛らしい。


 「エリアスラと申します。エリィとお呼びくださいませ。」

 「ルフレオです。」


 この2人が私の世話係長と専属護衛の代表らしい。


 エリィさんは明るい水色の瞳で落ち着いた深緑の髪を1つに束ねている女の人。

 年齢は30代後半くらいかな。見た目よりも大人っぽい雰囲気だ。


 対してルフレオと名乗った男の人は透き通るように輝く銀髪で、感情を感じさせない青と薄緑のオッドアイを持つ。


 他2人の男性よりも若く見えるから、私のことを最重要来賓者に指定しても専属につけるのはそこそこの人なのだと思う。


 そりゃ強い人は国の中枢を握る人に割り振られるよね。




 「あなたのお名前を教えていただけませんか?」


 黄緑髪が名前を聞いてきた。


 言われてみれば、名乗ってない。


 …名前もわからない人を最重要来賓者に指定しちゃうのか、ここの国王様。

 常識が通用しなさすぎて困る。



 「三谷(ミヤ)有咲(アリサ)です。」


 「ミャリサ様。」


 「え、いや、三谷、有咲です。」


 「ミャアリサ様ですね。失礼しました。」


 え、いや、あの、違います。


 三谷です、ミヤ。ミャじゃないです。



 そして三谷は名字です。名前じゃないです。



 そんな心の叫びが黄緑髪に聞こえる訳もなく。


 黄緑髪はサラサラとメモ帳に何かを書き始めた。


 私の名前をメモしていることは一目瞭然。もう諦めよう。



 名前をつけてくれた両親には少し申し訳ないけれど、別に名前にこだわりがあるわけではないし。




 「何かありましたらエリアスラに言いつけてください。では、私は仕事があるので失礼します。」


 黄緑髪が部屋から出ていく。しかし世話係や護衛さん方はその場から動かない。



 え、どうしたらいいんだろ。


 めちゃくちゃ居心地が悪い。



 そんな心の声が聞こえたのか、エリィさんが口を開く。



 「ミャアリサ様。何か指示をいただけませんか?私どもは指示がないと動いてはいけないのです。」


 「あ、じゃあ適当に何かしてください。ずっと見られているのは落ち着かないので。」


 私がそう言うと、エリィさんとルフレオさんが他の人たちに指示を出してくれる。


 指示を出さないと動いてくれないってなんだか不便だ。



 ルフレオさん以外の男性は廊下で警備をするらしく部屋から出て行った。


 女性陣はエリィさんだけ部屋に残り、他は退出した。




 つまり部屋の中には私とエリィさんとルフレオさんの3人のみ。


 「ミャアリサ様。私とルフレオ様はミャアリサ様のご事情を伺っております。何かございましたら私どもにまず伝えてくださいませ。」


 「わかりました。」


 事情ってあれだよね。召喚されちゃったことだよね。


 わざわざそう伝えてくるってことは、エリィさん達以外にバレないように気をつけなくてはならないってことかな。



 現時点で常識が通用しないことがわかっているから、ボロが出ないようにするのは相当難しい気がするけれど、頑張ろう。




 そう決意したのもつかの間。


 「くぅ〜〜〜…。」


 私のお腹が鳴ってしまった。



 大きな音だった上に、エリィさんもルフレオさんも特に何かをしている最中ではなかった。


 確実に聞こえた…。




 「朝食の準備をさせております。もう少々お待ちくださいませ。」


 「は、はい…。」


 優しく微笑むエリィさんに苦笑いを返しながら、気を紛らわせるために部屋の中を物色し始める。



 昨日から気になっていたけれど、家具が淡く光ってるのは何でなんだろう。


 触ってみても特に何も変わらない。



 「エリィさん。何で家具が光っているのですか?」


 「魔法が付与されているからですよ。例えば…。」


 エリィさんがテーブルに近づいていき、見ていてくださいませと言ってテーブルの上に手をかざす。


 そのかざした手が淡く光ったと思ったら、茶色く濁った泥水が手から噴出された。


 「え!?」


 噴出された泥水はテーブル上に落ちていく。

 …しかし泥水はテーブルに吸収されるように消えていく。


 「え?え…?」


 「ミャアリサ様がいらっしゃった世界ではこのような魔法は存在しなかったのですね。ここまで驚いていただけるとは思いませんでした。」


 クスクスと笑っているエリィさん。


 きっと今の現象はここでは当たり前のことなのだろう。



 それでも私には理解できないし、馴染める自信がない。



 「家具ごとに付与されている魔法は異なりますが、基本的には綺麗な状態を保つようできております。」


 「なるほど…。」



 「もうそろそろ朝食が運ばれてきますので、そちらを召し上がったあとに色々お話しましょう。」



 その後、先程出て行った世話係の内2人が朝食を持ってきてくれた。


 フレンチトーストのようなものだったから、あまり食べ物によるカルチャーショックはなさそうだ。


 私が食べ終わると、エリィさんが指示を出して世話係2人がまた部屋から出ていった。