「あのですね…、先日宝物庫にあったある本の解読が終わり、そこには召喚魔法のやり方が書かれていたのですよ…。」
ねぇ、どうしよう。
もうこの先の展開が読めてきちゃったんだけど。
「それで現国王様が前国王様方と緊急会議して、実際に召喚できるか試してみようという結論に至りまして…。」
「召喚されたのが私だと。」
「はい…。で、でも!本当にできちゃうとは思っていませんでしたよ!」
だから何だ。
できないと思っていたとしても最悪の場合を考えてやってください。
あなた方のせいで私はピンチです。ゲームができなくて。
今日だって二次元アイドルさまは私のログインを待ってくれているはずなのに…!!
「そんな無責任に召喚するくらいなら、戻す方法もわかってるんですよね?早く戻してください。」
わ!すごいのわかっちゃった!よし!試してみよう☆
って簡単にやれるってことは、元に戻す魔法も一緒にわかっているからだよね。
国王様って言ってたから、もしこれで何かあったら国が責任取るってことだし。
もしこうなったらこうなって…って予測できる全ての可能性にちゃんとした解決策がある状態でしか、大きな試みはしないよね。
「誠に残念ながら、あなたを送還する魔法はわかっておりません…。」
「はぁ!?わかってないのに召喚しちゃったの!?」
「できないと思ってましたので…。」
意味わかんない。意味わかんない。
できないと思っていても最悪の事態に備えなきゃいけないって、大学生の私でもわかるよ。
国王がどんな人かは知らないけれど、ここにいる3人は少なくとも30歳程度はあるはず。
私より10年くらい経験が豊富なはずなのに、それを考えずに召喚するなんて…。
「っていうかどうしよう!イベント!ログボ!!」
慌ててもう一度インターネットに繋げないか模索してみる。
二次元アイドルさまがいない世界なんて耐えられない。
もしかしたらこの異世界でもテレビとかスマホにあたるものが存在して、
二次元アイドルもどきがいるかもしれないけど、無責任に召喚なんてしてしまうアホな世界に存在するわけがないと思う。
というか、もし存在していても私が知っている二次元アイドルさまとはクオリティーがかけ離れている気しかしない。
「ログボって何ですかね。」
「ペットの名前では?」
「なるほど。確かに異世界に召喚されてしまったらペットのお世話できませんね…。」
右側から見当違いな会話が聞こえるけれど、それどころじゃない。
本当にどうしよう。
え、もう、死ぬしかない???
死んでもう一度日本に転生することを祈る???
「あの、ここに居続けるのもいいのですが、移動しませんか?」
「はい…?」
「ここは普段使われていない地下室なのです。部屋を用意してもらったので、そちらに行きませんか?」
ここは、地下室。
ということはもしかしたら部屋移動したらインターネットがつながるかも…!
淡い期待を胸に、枕元に置いてあったかばんを抱えて3人についていく。
階段を登り、彫り細工が施された廊下を通ってひとつの部屋に案内される。
中は結構広く、高校の教室くらいで、テーブルやイスだけでなくベッドや棚なども置かれていた。
家具も彫り細工が施されていたり、幻想的に光を放っていたりしていて高級そうだ。
…何故家具が光っているんだろう。
ライトとかならともかく、テーブルとか棚とかも発光している。
「あなたにはここで生活していただきます。必要なものがありましたら遠慮なく教えてください。
あなたは国王様から最重要来賓者に指定されました。」
最重要来賓者。
来賓って確か招待されたお客さんのことだよね。
私招待された覚えないんだけど。
それでもちゃんと衣食住には困らないようで少し安心。
無責任に召喚した上にポイッて放置されちゃったら生きていける自信がない。
召喚魔法が存在してしまっているし、家具だって謎に光っている。
ここが日本のような環境ではないのは明らかだから、ひとりで生きていくことは不可能だ。
日本で暮らしていた時ですら一人暮らしをせずに親に頼っていたんだから尚更。
「明日以降に専属の世話係及び護衛をお付けします。今晩は申し訳ないのですがご自身で身の回りのことをお願いします。」
「専属の、世話係と護衛。」
国王指定の最重要来賓者だからなのか。
はたまたここではそれが当たり前なのか知らないけれど、馴染みのない人々が付いてくれるというのは少し恐怖だ。
ずっと部屋の中にいる、なんてことしないよね。
常に見られていたらストレス過多で倒れてしまう自信がある。
「とりあえず今晩過ごす上で何か質問はございますか?」
聞きたいこと。
そんなの1つしかない。
「ここはインターネットが繋がりますか!?」
「いんたー、ねっと…?何ですか、それ。」
終わった。終わってしまった…。
スイラメが…。ログインボーナスが…。
私の大好きなキャラクター達が、頭の中で手を振っていた。