ブレスレットを使用し、部屋に戻ってきた私とルフレオ。
エリィさんがすぐに声をかけてくれたので、紅茶を淹れてもらった。
ここの紅茶、すごくおいしいんだよね。
日本にいた時はあまり飲まなかったけれど、こちらに来てハマってしまった。
「本日は何やら計画なさっていたようですが。」
「うん。スカウトしにいってきたの。」
「スカウト、でございますか。」
ルフレオとタメ口で話すようになってから、エリィさんにも同じように話すことになった。
何倍も地位が高いルフレオに使われていない敬語を、自身に使われるのは恐れ多いそうだ。
今日の話を簡単にエリィさんにもする。
そしてその時思った疑問もついでに口にしてみた。
「そういえばパスって何?手触り合ってたけど。」
「離れたところにいる相手と会話ができる魔法のことだ。」
「私のような魔力の少ない者はあまり使い勝手がよくないものですわ。」
「というと?」
「パスは送る側が魔法を使用するのですが、非属性魔法なので訓練を積まないとなかなか上手く使えないのです。」
「受け取ることは誰でもできるが。学園に通うものは基本的に魔法の使用に長けた者が多いから当たり前に使用されている。」
そういえば当たり前すぎて教えていなかったな、とつぶやくルフレオ。
エリィさんからしたら全く当たり前に使用できる魔法ではなさそうなのに、不思議な話だ。
できる人はできない人の気持ちがわからないといったことと似ているのだろうか。
さっそくやり方を教えてもらい、使用することができるようになった。
といっても部屋の中同士で練習したから、私がどれくらいの距離離れていても送れるのかはわからないけれど。
手を触り合っていたのは、個人個人で違う魔力の質を確認し合っていたみたいだ。
日本で言う指紋のように、魔力の質も人によって違うらしい。
魔法が使用された犯罪はすぐに犯人がわかるのだとか。
何故か私がパスを使おうとすると電話帳のような半透明の画面が出てくるけれど、ルフレオ達からは見えないようだ。
本来は相手のことを意識して、体が覚えている魔力に向けて放つ魔法らしい。
だからパスは繋げていない相手には送れない。
…私の電話帳もどきにはアーミュー達の名前も書いてあるけど、きっと送れないのだろう。
送れない相手の名前まで表示する意味はあるのだろうか。
「前も思ったが、アリサは魔法の取得が早すぎる。」
「そうなの?」
「非属性魔法は日常生活で使いやすく便利だが、特殊な魔法形態の為に覚えるのは相当難しい。やはり黒い瞳は非属性魔法に適しているのだろうな。」
便利な魔法が得意なのは嬉しいことだ。
ここの普通がわからないから、全然実感はわかないけれど。
付与された魔法のおかげで温かいままの紅茶を一口飲む。
うん、今日のエリィさんの紅茶も抜群においしい。
種類とかは全然わからないけれど、毎日違う紅茶を選んでくれていることくらいはわかった。
「あ、そうだ。ネリアルフの左目辺りにある模様?は何なの?」
「魔族と呼ばれる人々には必ずある模様だ。ネリアルフのように見える位置にあることは稀だが、あれがあると魔法が使用しやすくなるらしい。」
「魔族といっても同じ人ですから。体のどこかに模様があったらそう呼ばれるだけでございます。」
「じゃあ別に親が魔族だからって子どもも魔族って訳じゃないんだ。」
「はい。」
てっきり魔族っていう種類の人がいるのかと思ってた。
時々模様がある人が生まれるってだけなんだね。
「あれ?でもネリアルフの牙って尖ってなかった?牙も魔族の特徴かと思ってた。」
「牙なんて見てないからわからないが、別に魔族の特徴ではない。一応言っておくが、彼の肌が褐色なのも別に魔族は関係ないぞ。」
あくまで模様がある人が魔族らしい。
肌が褐色で牙があるっていうのも魔族っぽいんだけれど、ただの偏見にすぎなかったみたい。
「こうやってミャアリサ様と話していると、本当に別世界からやってきたのだと実感します。」
「当たり前というものは怖いものだな。」
何故かエリィさんとルフレオが共感しあっているけれど、私を除け者にしないでほしい。
仕方がないから、私は残っていた紅茶を一気飲みしてやった。



