「すみません。少しだけお時間いただけませんか?」
「ん〜?どっちに言ってる?」
「お二人ともに。」
アイドルを普及しようと決めた私は、さっそくスカウトを始めることにした。
個人的に5人組のグループが好きだから、目標は5人集めること。
立候補したアーミューと、勝手に頭数に入れているルフレオを除いてあと3人必要だ。
そこで入学してから何度か見かけた2人組に声をかけてみることにしたのだ。
ルフレオが以前通っていた時からいたエルフと魔族の2人組。
彼らは試験を受ける資格を持っているのにも関わらず、受験せず学園に通い続けているそうだ。
本来ラズリエル学園を卒業したら高収入の職に就くことができるから、試験を受けられるようになれば皆すぐに受験するらしい。
受からなくても特に罰則等のマイナス要素もないから何度も挑戦するのだ。
しかし彼らはそうしない。ということはお金や時間に困っていないということだと予想した。
いつも女性に囲まれていることからも、アイドルに適材なことは明らかだし。
「わ〜、こんなとこ初めて来た。」
「天才発明家の研究室だろ?聞いたことはあるぞ。」
「天才発明家っ!もっと言って!!」
最後のアーミューは放置しておいて、と。
スカウトの話をするためにアーミューが好んで使っている実験室に移動した私達。
アーミューには先に話を通しておいたため、人数分の紅茶を用意してくれていた。
実験室で紅茶。なんだか薬品が混ざっていそうで嫌だな。
まぁありがたく飲みますが。
「で?こんなとこまでわざわざ連れてきて、オレ達に何の用?」
「あのですね、―――」
私が召喚されたこと等は伏せて、アイドルというものを普及させたいということを伝える。
さすがに断られる可能性があるから、国の過ちを言うことはしなかった。
たどたどしい説明の合間合間に、アーミューが補足説明を入れてくれる。
「なるほどな。」
「いいよ〜。やるやる〜。」
「いや、即決しすぎだろ…。」
のんびりした口調のエルフさんがすぐに承諾してくれた。
ルフレオから彼らはどちらかがやると決めたらもう1人も一緒に付き合う習慣があると聞いている。
もう少し押したら魔族さんも承諾してくれるだろう。
―その予想は無事的中した。
「わかったよ。エルがやるっつってんだからオレもやるしかねぇだろ。」
「ありがとうございます!」
ぺこりとお辞儀をして、感謝を伝える。
「それでー?僕あんまり2人のこと知らないまんま勧誘してたんだけど、2人のこと教えて?」
「え。」
ノリノリで補足説明とかしてくれていたのに、アーミュー本人は相手が誰なのか知らなかったらしい。
私自身も彼らと話すのは初めてなので、自己紹介をしてもらう流れに。
「エルヴィッドだよ。エルフだから、風魔法が得意〜。甘いお菓子と、お昼寝が好き!」
好きと言ったタイミングで少し頷いたエルヴィッド。
鮮やかな紫色の髪がふわりと揺れて、とても素敵だ。
「オレはネリアルフ。エルとは幼馴染だ。オレはエルと違って体を動かすことが好きだな。ま、よろしく!」
ニカッと笑うネリアルフ。
ちらりと牙が尖っているのが見えた。
目つきは鋭いけれど、性格は明るそうだ。
左目の上下にまたがるように不思議なタトゥーのようなものが気になるけれど、ここで聞いていいのかわからないため、我慢する。
常識なことだったら明らかにおかしいし、コンプレックスなものかもしれないし。
私だって何故黒い瞳なのか聞かれたら普通に困る。
「やるって言ったけど、オレ達は具体的に何すりゃいいの?」
「とりあえずもう1人メンバーを集めたいので特には。揃ってから準備していこうと思ってます。」
「じゃあ連絡を待ってればいいんだな。」
「パス繋ぐ?どうぞ〜。」
エルヴィッドが手を差し出してくるけれど、どうしていいのかわからない。
パスって一体何のことですか。
「アリサとは常に一緒に私がいるから、私と繋いでおけばいいだろう。」
今までずっと口を挟まずに大人しく見守ってくれていたルフレオがすっと前に出る。
エルヴィッドの手に触れ、そして離した。
え、触るだけ?何をしたの?
「僕もー!」
アーミューもルフレオと同じ行為をする。
ついでと言わんばかりにネリアルフもし始めた。
何も知らない私から見たら、突然お手手を合わせ始めたイケメン達なのですが。
イケメンは何をやってもかっこいいので問題はないと思いますが、不思議です。
「とりあえず、今日のところは解散で。行くぞ、アリサ。」
「あ、はい。」
ルフレオに言われるがまま、実験室を後にしたのだった。



