私が内心で自嘲していると佐藤さんの手が伸びてくる。

 頬にそっと触れた彼の手は温かかった。微かに彼の鼓動が伝わってくる。

 私はじっと見つめてくる彼の瞳に吸い込まれそうになりながら自分の身体が熱くなってくるのを自覚した。とくんとくんと打ち鳴らしていた胸がとくとくとくとくとそのリズムを速めていく。

「清川さんのお姉さんにも言いましたけど」

 佐藤さんがやや恥ずかしげにささやく。

「俺、清川さんと一緒に暮らしたいです」

 頬から離した佐藤さんの体温が早くも恋しくなる。その穴埋めをするように彼は手を私の腰へと回した。ぐいと引き寄せられ私は抵抗することなく彼と密着する。彼の匂いが私を包み込んだ。体温も鼓動もさっきよりはっきりと私に伝わってくる。

「清川さん」

 耳心地の良い声を私は独り占めする。

 彼を盗られたくない、と私の深いところで暗い闇がのっそりと顔を覗かせた。ちらと浮かんだ過去の苦い思い出が私の闇を色濃くする。