「……じゃあ、なんで先に行っちゃうの!?」
「早くおいで?」
「……え。いいの? 傘に入っても」
目が合った律くんは、微かに笑みを零して「おいで」ともう一度囁いた。
律くんがおいでと言ったら私は全力で行くに決まってる。
そもそも律くんは、私が断らないことなんて手に取るようにわかっている顔をしてる。
たった数歩先にいるのだけれど、その場から勢いよく足を動かしてスタートを切る。
「わわっ!」
傘の中に入った瞬間、律くんに手を掴まれて軽く引き寄せられた。
「ごめん。意地悪しすぎた」
「……律、くん?」
「芽衣が走り出すとこも可愛いから」
どういう意味かよくわかっていないけれど、目の前に整いすぎた律くんの顔があって、釘付けになる。



