私は踵を返してステージに立つために歩き出した。
暗転して、薄暗い中をゆっくりと進んでいったその瞬間、腕を掴まれて足が止まる。
「──可愛い」
暗闇の中、耳元で囁かれた律くんの声。
「っ、」
久しぶりに近くで聞いた律くんの声に、胸が甘く締め付けられる。
何か言いたかった。
だけど、時間は待ってくれるわけもなく、本番はスタートした……。
深呼吸してから、私は舞台にあがった。
本当は、泣いてしまいそうだった……。
本番、台本に目を通していたからか、律くんはヒーロー役をしっかりと務めていた。
やる気ないって態度だったのに、こういうことは嫌いなはずなのに。
ホントは、ちゃんと周りのことを考えてくれていて……。



