10月。
ある日の掃除時間。



「先生ー、こんにちはー」

「おお、黒瀬くん。こんにちは」



保健室前の廊下を掃除している、2年生の黒瀬くんに遭遇した。

彼は青石さんや上川くんと仲がいい生徒で、凛々しい外見とは裏腹に、自由でのんびり屋さんな性格である。



「あの、明日の昼休みって時間ありますか? 相談したいことがあって」

「いいよ。お昼食べたらおいで」








「失礼します」

「いらっしゃい」



翌日の昼休み。
黒瀬くんを招き入れて、椅子に座らせた。

緊張しているのか、背筋を正して何度も深呼吸をしている。

この雰囲気だと、真面目な相談かな?



「あの……忘れられない人を忘れるには、どうしたらいいですか……?」



落ち着いたトーンで尋ねてきた彼は、どことなく寂しい目をしていた。



「……っと、その人にあまり良くない思い出があるの?」

「いえ……むしろ幸せな思い出ばかりです」

「幸せなら無理して忘れなくても良いと思うけど……何か困ってるの?」