「……っ、ごめんなさ……、もう、邪魔しないから――」

「逃げられたら困るんだ。話、聞いてたんだろ? 俺、もう走れねーんだ。だから、新垣に走って逃げられたらつかまえることは出来ない。追いかけることが出来ない。だから……逃げないでほしい」

新垣が俺のもとを離れても、俺は追いかけられない。

どんなにいてほしいと願っても、俺の足では新垣においつけない。

「友達、なってよ。せっかく逢えたんだし、これからも新垣と話してみたい」

今、ここで手を伸ばせ。新垣の方へ。

例え今、その手が重ねられることがなくても、俺が確かに新垣を見ているとわかってもらうために。

「……逃げないって言ったら、友達になってくれる……?」

背中を向けたままの新垣から、震えるか細い声がした。

「うん。逃げないを約束してくれるなら」

「―――」

くるりとスカート翻して新垣がこちらを向いた。あー、やっぱ泣かせちゃったか……。

目が紅かった。

でも、微笑んでいた。

「逃げないよ」

「うん」

―――中学二年、このときは、俺が手を伸ばして、新垣が逃げないと口にして、ここまで。

俺が新垣に差し伸ばし続けた手が重ねられる日は、まだ少し先になる……。