「流石に遅刻しそうだから、そろそろ行く」
「そうだね……頑張って」
先にほどいたのは優生だった。
出勤までに間に合わなくなってしまうから当然なのに、それが寂しく思えてしまった。
頼もしい背中を見届けていると、優生がくるりと後ろを振り返る。
視線を合わせたまま、ゆったりとこちらに向かってきた。
「忘れ物した」
「……? お弁当は忘れてないよ?」
そんなに慌ててないし、さほど重要なものではないらしい。
だったら仕事に向かった方ではいいのでは?
そう思った次の瞬間。
優しく腕を掴まれて──唇が重なった。
「……っ」
「今日は1回もしてなかったからな。忘れてたのは、これ」
触れるだけのキスは、何が起きたか理解する前に終わる。
「そんな寂しそうな顔すんなよ。仕事に行けなくなるから」



