ほどなく、治験スタッフを脅して虚偽の報告をさせていた日本の製薬会社が判明した。

「損害賠償を請求する代わりだ」

 ネイトはそれはいい笑顔で、その会社の営業実績やこれまでの悪行をあっというまに暴いた。
 さらには会社更生法を申請させるまでに追い込んだ。

 いくら巨大企業のCEOとはいえ、そこまでの力を持っているものなの?

 浮気と違って脅迫なんて、現代ではメール一本で出来る。
 あるいは郵便物一通で済む。

 だから、ドラマみたいに疑わしい人に張りついていたって、決定的な現場に遭遇できるか疑わしい。
 ネットの送受信記録だって、捨てアカウントから辿れたとしても、開示請求が私たちの推理段階で通るのか謎だ。

 一番残ってしまうのは金銭の受け渡しの記録だろうけど。
 照会したからって、銀行が要求に応じて白日のもとに晒すとは考えられない。

「どうやったの?」
「happy ignorance」

 うっかり聞いてしまったら、一言。
 眩しいほどの笑顔なのに、黒いものを感じる。
 『知らぬが仏』という日本の諺を思い出した。

「…………たしかに、知らない方がいいかも……」
「君にはボーナスを与えないとな」
「要りません」

 それよりも貴方の信頼が欲しい。