翌々日。
 出勤した途端、社長室に呼び出された。
 お父様ったら、ほんと過保護。
 一人暮らしの娘が朝帰りしたくらいで呼びつけないでほしい。
 と、思いつつ。

「……バレるの、予想外に早かった……」

 さすがお父様、請求明細マメにチェックしてるんだなー。
 
 さて、なんて言い訳しようかな。
 お父様のことだから『相手を呼んでこい。おまえの相手として相応しいか見極めてやる!』からの、即婚約と言い出しかねない。

 残念なことに私の恋人は一夜限り。
 既に日本から出国している可能性が高い。 
 まだ滞在中としても、ネイトという名前で金髪の男性。
 それだけで一人の人間を探し出すなんて無理。

 名前だって偽名の可能性がある。
 ううん、たかが一夜の相手に本名を名乗るだろうか。
 とっくに別の名前で、他の女の子のベッドの中かもしれないし。
 ……見つけられたとしても、彼が私のことを忘れたいのは明確だった。

「さすがにお父様も、相手が見つからないのに『結婚しろ!』とは言わないでしょ。ああ、でも。『もう自由恋愛などさせんっ、見合いしろ』って言われちゃうかな……」

 なんとなく、あれからずっと首にかけているペンダントを服の上から握った。

 息を吸ってからドアをノックする。
 秘書に通された部屋にはお父様以外に人がいる。
 仕事用の態度を崩さなくて、セーフ。

 お父様の机の前に立っている人物の、背はかなり高い。
 体格はがっしり。靴は一点もの。スーツも一流テーラーでのオーダーだ。
 まだ若い。
 眩いばかりの金髪と、ブルートパーズのような碧……い、眼?
 あまりに、情熱を分かち合った人と似過ぎている。

「ネイト……」

 私の唇は勝手に名称を呟いていた。