「それでね、弘志と一緒に駅前のショップに行ってさぁ」


6月上旬。


教室の中はまだ冷房が入っていないが、今日は気温が上がるらしい。


あたしは目の前の席に座るマリナをぼんやりと見つめ、背中に汗が流れていくのを感じた。


「ねぇ聞いてる? 美弥」


名前を呼ばれてあたしはすぐに頷いた。


マリナは大きな目をパチパチと瞬きさせてあたしを見ている。


「もちろん聞いてるよ。相変わらず仲いいねぇ」


あたしは上辺を滑っていく言葉を吐き出す。


そこに本物の感情なんてない。


大谷高校、2年B組。


友人の熊木マリナ(クマキ マリナ)と、同じクラスの飯野弘志(イイノ ヒロシ)は美男美女カップルとして校内公認だった。


そこは認める。


「えへへ、そうなんだよねぇ」


マリナは表情を崩して何度も頷いている。


あたしはマリナのツヤツヤの黒髪へ視線を移動させた。


毎日どんなケアをしているのかわからないけれど、天使の輪ができていないところなんて見たことがなかった。