「その…、3年の一ノ瀬って、この間、キャプテンと話してた人だよな…?」
工藤くんが、私の顔色をうかがいながら、言う。
「母親が、癌で亡くなったって言ってた人、だろ?」
それは、先月、涼介先輩と話していたこと。
工藤くん、やっぱり聞いていたんだ……。
聞いていたなら、隠す必要もないだろう。
「うん、そうだよ。」
「一ノ瀬って……結希ちゃんと、どんな関係?」
「知り合い。」
「どんなつながりとか、聞いてもいいかな…?」
どんなつながり…。
それを話すと、長くなるし、ややこしい。
なにより、ストーカーのことを話さなくてはならなくなる。
それは、避けたい。
ストーカーのことは、できるだけ、隠しておきたい。
私が黙って考えていると、工藤くんが焦り始めた。
「あ、いや、言いたくないならいいんだ、そんな、そこまで、」
「うん。ごめんね…。」
私があやまると、工藤くんはさらに焦った。
ずいぶん正直な人だ。
「結希ちゃんは、さ。」
急に、工藤くんの声が、真剣なものになった。
「一ノ瀬と……付き合ってたり、するの…?」
付き合う?
一ノ瀬先輩と、私が?
ありえない。
「付き合って、ないけど?」
工藤くんは、なんで、そんなことを聞くのだろう?
「じゃあ、好きな人とか、気になってる人とか、いたりする?」
だから、なんで、そんなことを聞くの?
「特にいないよ?」
すると、工藤くんが、パッと笑顔になった。
「ああ…うん。そうなんだあ。」
爽やかな、人なつっこい笑みを浮かべて、工藤くんは喜んでいるようだ。
なんで喜ぶんだろう?
私、そんないいこと言ったかな?
あとから思い返すと、あの頃の私は、ずいぶんと鈍感だった。

