「…どうしたの?桜子」
そう呼ばれて、思わず手を離した。
がっ君は、私を普段『桜』と呼ぶ。
けれど、たまに『桜子』って呼ぶんだ。
そして、『桜子』って呼ぶ時は、真剣な時。
今日は何度も、桜子って呼ばれた。
「じゃあ、僕は帰るよ」
何も言いださないわたしにしびれを切らしたのか、がっ君は鞄を持って、立ち上がった。
先生に「さようなら」と伝え、クラスメイトに手を振って、教室を出て行ってしまう。
どう、しよう…がっ君、このまま帰っちゃう…。
仲直り、しなきゃ…。
喧嘩をしたわけではないけれど、こんな風にバイバイするのは嫌だった。
わたしは何も言わずに立ち上がって、教室を出て行く。
先生が「おい白咲!」という声が聞こえたけれど、今はそんなものに構っていられなかった。

