「……女の子呼び捨てとか今までなんも思わんかったのに、アホみたいに心臓バクバクしてるわ」
とーるは、セットされた髪をくしゃくしゃとかいて、照れくさそうに口を開く。
「桜…「桜子」
多分、わたしのことを呼び捨てにしようとしたんだと思う。
とーるは、桜子って呼ぼうとしたんだと思う。
でもそれは、別の声によって掻き消された。
わたしの背後から聞こえた声。
聞き覚えのある、ハスキーボイスは、いつものそれよりも心なしか低かった。
「がっ、君?」
どうして?
水泳の授業は?
リレーは終わったの?
振り返った先に、体育のジャージを着たがっ君の姿。

