「…うん」
「友達ができてよかったわね。今日は牙玖の誕生日パーティーなんだから、楽しい思い出作ろうね?」
「うん」
「……何か食べたいものとか、欲しいものとかあったら、お母さんに言いなさいよ」
いつも、母親は決まってそう言う。
『欲しいものはあるの?』と、それは俺のご機嫌を取りたいからか、自我を確認したいからか、明確な理由は確かではない。
毎度聞かれるそれが鬱陶しくて、今までNoとしか返さなかった。
「母さん」
俺たちの先を手を繋いで歩く、桜子とそのお母さん。
楽しそうな横顔を見つめながら、口をゆっくりと開く。
「欲しい」
母親の顔を見つめて、そう言った。
「俺…桜子欲しい」
「…え?」
自然と、頰が緩む。きっと俺は今笑っていて、憶えている中で、それは人生で初めてで。
俺の笑顔を見て、母親は口を手で押さえた。
その瞳からは、涙が溢れている。
先程まであったドス黒い感情たちが、嘘みたいに消えていく。
今心の中に巡るのは、彼女が愛しいという感情ただ一つ。

