「あたしが誰だか知っての狼藉?」

「えっ、あ、あの、えっと……っ」



まごつく僕に、ふっ、と目の前の表情がゆるんだ。


かと思えば、その表情は目の前から消えた。正確に言えば、上に移動した。フェンスをよじ登っている。

そしてスカートをひるがえして舞い降りてきた。


フェンスで区切られた、こちら側。

僕の元に。


これこそ、正真正銘、目の前にいる。もうフェンスの隔たりはない。だからだろうか。近すぎて目眩がする。


ドアップでも、やっぱり、かわいい。



「ねぇ、」



たった一言で腰を抜かした。

地面に尻をつけた拍子にまたシャッターを切ってしまう。このフィルムにはブレた姿しか写ってないんだろう。それでも僕は、かわいいと見惚れてしまうんだろう。


彼女はこんなにもかわいいのに、僕はなんてダサいんだ。



「あたしのこと、知ってるの?」



天使の生まれ変わりのような彼女は、しゃがんで僕の情けない顔を覗き込んでくる。

こくこくとうなずく。ふーん、と彼女は笑みを浮かべた。


知ってるも何も、彼女は超有名人だ。
知らない奴のほうがうちの男子校では特に少ない。